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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第二章

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146 ユイナ

「この世界は・・・いい世界ですか?」

 ユイナがソファーに座りながらサタニアに聞いていた。


「何でそんなこと聞いてくるの?」

「えっと・・・私の世界はいいことがないから、魔族、がこの世界のことどう思っているのかって興味があって。深い意味はないです」

 サタニアが睨むと、ユイナが恐縮していた。


「貴女たちみたいな異世界住人が来なければね。とーってもいい世界よ。人間と魔族がしっかり切り離されていたし、たまに例外もあるけど。アイリスとか」

「俺のほうを見るなよ」


「ヴィルの反応が気になって」

「・・・・・・・・・」

 サタニアの嫉妬は日に日に強くなってる気がする。

 アエルでも来てくれたらな。


「そうですか。私もここに転移されてくる異世界住人は苦手です。って、私もそうなんですけど」

「ふうん」

 サタニアがハーブティーを飲みながら、地図を眺めていた。


 ユイナには魔王城を一通り案内して、あまりうろつかないように指示したらしい。

 上位魔族は、カマエルとサリーにしか話していない。

 聞くところによると、かなり嫌な顔はしていたらしいけどな。


 何か問題を起こせば、すぐに殺すように言うと、納得したらしい。



「まぁ、異世界住人のことはよく知らないが、勝手に転移して、アリエル王国の住人をまっさらにして、好き放題やってるからな。ろくでもないことに変わりはない」

「そうね」

 本を置いた。


「え?」

 立ち上がってユイナのほうへ歩いていく。


「お前は十戒軍について何か知っているか?」

「も、もちろんです。テラと一緒に、異世界とのゲートを結ぶ計画を実行に移した方々ですよね。この世界をより良い世界に変えていくために・・・って」


「そう聞いてるのか?」


「違うんですか?」

「嘘ばっかり」

 サタニアがため息をつく。


「やっぱり・・・私も、その言葉には懐疑的でした。みんなだって馬鹿じゃない、口には出さなくても、十戒軍の言うことをすべて鵜呑みにしているわけではないんです」

「でも、ユイナもやったんでしょ。異世界住人とこっちの世界の住人がイチャイチャするやつ」


「えっ!? ま、ま、まさか・・・」

 ユイナが思いっきり首を振った。


「わ、私はやってませんから。18歳未満と女性は対象外です! アバターの確認方法はそうゆうのだけじゃありませんから!!」

「ふうん」


 ユイナがふぅっと息を吐いて、下を向く。


「私以外は・・・みんな、こっちに来たくて仕方なかったんです。確かに、事前に聞かされていた通り、こっちでは魔法も使えますし、ゲームの世界に来たみたいです」

「・・・・・・」


「無理やり転移させられなければ、私も楽しんでいたと思います。私はゲームが得意ですし、ここはゲームの世界にそっくりですから」

 棚の瓶や本、天井のランプを見ながら言った。



「こっちではテラのことを神様って呼んでるんですね。私はテラとあまり話したことありませんが」

「そうなの?」


「はい、女性用のアバターは初めてだったので、使い心地を聞かれたくらいです。あと、こうやって自分の武器を変えられるかとか、アバターの基本操作確認ですね・・・・」

 空中で指を動かしながら言う。


「・・・・・」

 何も持っていなかったユイナの近くに剣が現れたり、杖が現れたり、切り替わっていった。


 戦闘時に見た異世界住人と同じだな。


「ん? どうしました?」

「いや・・・」

 本を開いて、頬杖をつく。


 ユイナは思ったよりも使えそうだ。


 何より、異世界住人と同じアバターで転移しているという点は大きい。

 ユイナを観察していれば、得体のしれない異世界住人の行動が掴めるかもしれないな。



「サタニア、ミハイル王国に行ってみるか?」

「ど、どうして? 急に」


「この辺のダンジョンは大体見ているし、ダンジョンの精霊からも有力な情報はない。願いを叶えるダンジョンを探すなら、ミハイル王国付近のダンジョンも見ておくべきだろう」

 テーブルに置いてあった地図を広げる。

 ププウルは、ミハイル王国周辺についてはあまり把握していないらしい。


「でも・・・ヴィルが留守にしている間に、異世界住人が魔族のダンジョンを攻略してしまうかもしれないわ。そ、それに、ミハイル王国は遠いんだから」

「上位魔族は強い。そう簡単にはいかないだろ。何より、ここにいたら退屈だ」

 軽く伸びをして、足を組んだ。


「むぅ・・・・でも・・・・でも・・・」

 サタニアが口に手を当てながらもごもご言っている。


 城に地獄の業火を放ったからな。

 そもそも、ミハイル王国自体、存続できているのかもわからない。


「行きたくないなら、無理しなくていい」

「・・・・・・・・・・」

「よく考えておいてくれ」


 ルークもどこかにいるだろう。

 人間たちは怪しい粉を吸っているし、サタニアが行きたくないのは理解できた。


「ユイナ」

「はいっ」


「お前も連れていく」

「私? ですか?」


「え? どうして? 異世界住人なんて、足手まといじゃない」

 サタニアが間に割って入ってきた。


「異世界住人がどんな能力があるのか間近で見ておきたい。ユイナ、お前は、こっちの世界へのシンクロ率が高いんだろ?」

「そ・・・そうですが・・・」

 自信なさそうに、短い髪を触っている。


「じゃ、じゃあ、私も行くわ」

「サタニア様」

「ヴィルと女の子を二人きりにすると、すぐ関係を持っちゃうんだから」


「えぇっ!?」

「誤解されるようなこと言うなよ」

「本当のことじゃない」

 サタニアが不満げに言う。


「でも、今日はもう駄目。眠いから、明日行きましょ」

「あぁ」

「ユイナ、絶対にヴィルにちょっかい出さないでね」

「し、しないですよ!」

 ユイナが一歩下がって、首を振る。


「よかった。じゃあ、おやすみなさい」

 サタニアがにこっと笑って、部屋を出ていった。 




「・・・・・・・」

 ユイナがぴんと背筋を伸ばして、空中で何かを操作し始める。

 腕や、首や、足首に付いたアクセサリーが切り替わっていった。


 俺を警戒してるな。


「サタニアの言うこと真に受けるなよ」

「え?」

「ま、100%嘘ではないけどな」


「!?」

「冗談だよ。襲わないって」

 ユイナが手を下すと、装備していたイヤリングがぱっと消えた。


「・・・なんか、意外で、驚きました」

「何がだ?」

「ヴィル様って、もっと、血も涙もないような、恐ろしい魔王なんだと思っていました。アリエル王国の聖堂に炎を放って逃げたと、十戒軍から聞いていたので」


「間違いではないけどな」


 アイリスのことが、もう遥か昔のことに感じられた。

 今振り返ってみると、なぜ人間が傷つけられただけで、自分があんなに怒っていたのかわからないな・・・。

 十戒軍が気に食わないことは確かだけどな。



「ヴィル様はどうしてリュウジのことを知っているのですか?」

 ユイナがちょっと緊張しながら話しかけてきた。


「会ったんだよ。未開拓のダンジョンで」

「え!? どうしてリュウジが!?」

「こっちにアバターがあるわけではないと言っていた。ユイナを探していたよ」


「よかった・・・・こっちの世界に転移したわけじゃなくて」

 ユイナがほっと胸を撫でおろしていた。


「メタルドラゴンという、魔族では見たことのないドラゴンがいたんだけど、何か知ってるか?」

「メタルドラゴン? あぁ・・・!」

 急にぱっと表情が明るくなった。


「懐かしい。昔やったゲーム、"ユグドラシル"っていうのに出てきたんです。とっても強くて、吐いた息で石化するんですよね? 鱗も硬いし、倒すのに苦労しました」

「・・・・?」

 本を落としそうになった。


「でも、どうして、メタルドラゴンなんかいるのでしょうか。異世界関係ない、ゲームのキャラクターなのに。どうやって?」

 ぶつぶつ独り言のように話していた。


「あの石化を解く方法はあるのか?」

「無いと思います。ゲームでは石化されたらゲームオーバーだったので・・・」

「そうか」

 ほっとしていた。


「私もそこに連れて行ってください。リュウジに会えるんですよね? 現状を伝えたくて」

 急に声に力が入っていた。


「まぁ、そのうちな」

「ありがとうございます。私のゲーム仲間で、昔から一緒に冒険してたんです・・・私のこと、まだ仲間だと思ってくれてるんですね」

 適当にあしらったが、ユイナは連れて行ってもらえるものだと思ったらしい。

 明らかに表情が違っていた。



 異世界とこの世界は近くなってきている。


 メタルドラゴンのような敵が、いつ現れてもおかしくないということか。

 もし、メタルドラゴンのような生き物がゴロゴロいる世界になれば、上位魔族だってやられる可能性だってある。


 まだ、ユイナを完全に信用したわけじゃない。

 テラに言われて、こっちの動きを探っているのかもしれないしな。


 どこに嘘があってもおかしくないと思いながら聞いていた。

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