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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第二章

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145 女性最初の転移者

 堕天使アエルは異世界住人について一通り話すと、用事を思い出して去っていった。


 あいつの考えはよくわかない。

 ただ、気まぐれにここにきているのか、何か目的があるのかも、な。


「ねぇ、アイリスのこと、気持ちが薄れてるって本当?」

「・・・随分、嬉しそうだな」

「そりゃそうよ。ヴィルを独り占めしたいもの」

 サタニアがあからさまににやにやしていた。


「気持ちが薄れているというか、なんなんだろうな、この感覚」

「自分のこと、わからないの・・・・?」

「あぁ・・・」


 ソファーの背もたれに寄りかかる。

 愛か・・・。


 魔族の王が気にすることではないけどな。


「勇者ってどうやってなるの?」

「知らない。オーディンは俺に勇者になる条件を話したことはない」

「名乗れば誰でも勇者になるわけじゃないんでしょ?」


「あぁ、各国が勇者と認めるんだよ。つか、何も知らないんだな?」

「だって、転移してきた魔王だもの」

 サタニアが隣に座って、少し頬を膨らませた。


 アエルはオーディンが自分の後任となる勇者を育てていると、話していた。

 十戒軍もいるが、今のところ異世界住人から見つけようとしているらしい。


「勇者が魔王を倒す・・・向こうの世界なら、定番の話ね」


「そうなのか?」

「ゲームでは、勇者と魔王はセットみたいなものだもの。勇者がプレイヤーで魔王は既存キャラ」

 サタニアが得意気に言う。


「セットって・・・まぁ、こっちの世界も勇者は魔族と戦闘していたけどな。オーディンが勇者だったときは、不思議と魔王がいなかったんだ」

 読みかけの本に手を伸ばす。


「あいつは運がよかった。アリエル王国の勇者と担ぎ上げられて・・・その人間も、全員いなくなったというのに」

「ヴィル・・・」

「異世界住人に手を貸すとは・・・失望したな」

 オーディンはアリエル王国で英雄とされていた。

 アリエル城下町の人間たちが一掃されたにもかかわらず、異世界住人に寝返るとは。


 勇者オーディンも、所詮ただの人間だったということか。


「オーディンもあのダンジョンで石化されていれば英雄のままでいられた。選択を間違えたな」


「・・・でも、きっと、勇者はいなきゃいけなかったのよ」

「ん?」

「そうゆう心の拠り所みたいなものって、誰もが必要でしょ。勇者がいるから、自分たちは大丈夫っていう思い込みみたいなものが、必要なときってあるの」

「・・・・・」

 サタニアがぼうっと、一点を見つめていた。


「サタニアはミハイル王国が気になっているのか?」

「え!?」


「その表情、ルークか・・・・」

「そ、そうゆうわけじゃない」

 視線を逸らした。


「どうなったっていいわ。あんな奴」

「サタニア、ルークに何か借りでもあるのか?」


「そうじゃない・・・どうしても、過去と重ねちゃうだけ」

「過去?」

 サタニアが小さく頷く。


「私がまだ・・・異世界にいたとき、兄がいたの。よくない人たちに絡まれて、引きこもりになって、家族が壊れていった」

 サタニアに七海の姿が重なる。


「でも、兄さんは悪くなかった。正しいと思ってやってたのに・・・状況が状況で味方できなかった。今でも、どこか引っかかってる。だから、本能的に、兄さんのように振舞うルークを見捨てられないのよ。どんなにクズであってもね」

 本をパラパラめくりながら聞いていた。


「別に借りがあるわけじゃない。死んでたらそれでいい」

「そうか」

 頬杖を付いて、サタニアをのほうを見る。


「お前ら、異世界を嫌ってる割に、異世界を引きずるよな」

「仕方ないじゃない。記憶を持って転移しちゃったんだから」



 ドサッ


「エヴァン」

「今日は客人が多いのね」

 サタニアが短いため息をつく。


「あれ? 今のはしゅ、瞬間移動ですか?」

「時空をいじるんだ。まぁ、できるのは、ここでは俺だけね」

 エヴァンが女剣士を引きずって、部屋に入ってきた。

 女がきょろきょろしていた。


 こいつ、どこかで見たような・・・。


「ヴィル、魔王城の敷地に入ってこようとした異世界住人を連れてきたんだ。まぁ、ここまでこれただけ、異世界住人にしては優秀なんじゃない?」

「全く、この部屋プライバシーも何もないのかしら? せっかくヴィルと話してたのに」

 サタニアが呆れながら本を置いていた。


「でも、面白そうね。女の異世界住人?」


「ここは・・・・?」

 女が顔を上げる。


「魔王城だ」

「魔王・・城・・・・」

 両手を縛られた状態で顔を上げる。

 黒目の大きい顔立ちの整った少女だ。


 女で唯一、異世界転移できた・・・こいつが、リュウジの話していた人間か?


「じゃあ、あ・・・貴方は?」

「魔王だ」


「!?」

「ん?」

 少女が急にもぞもぞと動いていて、人差し指を動かした。


「にっ・・・・肉体感覚同期解除・・・」


「なんだ?」

「今、向こうの世界にある肉体との感覚を切ったんです。痛みはありません。わ・・・私を殺してください」

 唇を震わせながら言う。


 エヴァンがため息をついて、屈んだ。


「君は望んで異世界転移計画に入ったんだろ? せめて、自分の意志くらい貫こうよ。何のために、わざわざ転移してすぐ、魔王城に来たんだ? 一応剣士だろ」


「違うんです。私は居たくなかった。私だけ女性なのにこっちの世界へのシンクロ率が高かったから、強引に転移計画に含められただけです。本当です!」


 サタニアが髪を後ろにやる。


「異世界住人が戻るのは自由じゃないの?」

「あの魔法陣から戻ることができる。でも、私の場合は、女性で唯一の転移者だから・・・帰ることを許されていない。このアバターを魔族に殺してもらうしか術がないんです。それで・・・」


「ふうん、女性ねぇ。なるほど、本格的に住み着くつもりか」

 エヴァンが息をついていた。


「どうして性別が関係あるの?」

「こっちで子作りができるかって試してみたいんじゃない? こっちの世界で妊娠出産出来たら、子孫を反映させることができるじゃん」


「なっ・・・・・!?」

「ゲームとは違う。本格的に、生活するつもりなんだ。確かにアバターとは思えないね、人間に近いよ」

 サタニアが耳まで真っ赤になる。


 少女が唇を噛んでいた。


「そ・・・そうゆうことです。私は向こうの世界で体が弱いから・・・こっちにいたほうがいいって言われて。すぐ帰れると思って、試しにって・・・だから、アリエル王国から逃げてきたんです。魔王城まで近づけば、魔族が殺してくれると思って」


「そんなに死にたいのか?」

「はい、殺してほしいです!」

 赤くしながら肩をプルプルさせていた。


「私は別にここで恋人なんか見つけるつもりありません。ちゃんと好きになった人と、付き合いたいんです・・・」


 好きな・・・か。


「なんて破廉恥な!」

「サタニア、一回落ち着けって」

「だだだ、だって、子供ができるってそうゆうことでしょ?」

 顔を押さえながら立ち上がった。


 ゲーム、アニメの影響なのか、サタニアの妄想は過ぎるところがある。


「サタニアの場合は経験のない知識が多すぎなんだよ。ネットを上手く使いこなせなかったタイプでしょ」

「いちいちうるさいわね」

 サタニアが女がきょとんとしているのを見て、咳ばらいをした。


「そもそも、どうして、すぐに帰りたいの? 今は異世界住人に何かされてるわけじゃないんでしょ?」

「はい。私は優しくしてもらってると思います。でも・・・帰りたいのです。もとの世界に戻りたい」

 胸のあたりで、ぎゅっと手を握りしめていた。


「・・・・お前の名前はユイナか?」

「え、どうして私の名前を?」

 目をぱちぱちさせていた。

 リュウジの話していた子で間違いないな。


 アイリスが伝えるって言っていたが、すれ違ったのか。


「少し耳にしただけだ」


「・・・・・・・」

 サタニアが反応していたけど何も言わなかった。


「お前は殺さない。別に殺すメリットもないしな」


「えっ・・・?」

 ユイナが戸惑っていた。


「確かにないね。別に攻撃するわけでもないし。むしろ、その異世界転移者持ってる色々な仕組みを聞いたほうが有益だ」

「で、でも・・・私は、に、人間なので。魔族と対立してます・・・放っておくとどうなるかわかりませんよ!」

 頭を掻く。

 強がっているのが伝わってくる。


 リュウジの話では、ゲームが得意だからアバターも使いこなしているはずなんだけどな。


「サタニア、お前が教育してやれ」

「そうだね。サタニアが適任だ」


「ど、どうして私が、異世界住人なんかと」

「問題があればすぐ殺せばいい。こいつもそれを望んでるんだから、いいだろう」

 殺してくれという奴を殺すほど、お人よしではない。


「そんな・・・・」

 ユイナが唖然としている。


 キィン


「きゃっ」

 エヴァンがユイナを縛っていた縄を切った。


「あ・・・・」

「まずは、その剣士の恰好どうにかしないと。魔族に寄せてくれない? 魔族への説明、難しくてさ」

「・・・はい」

 ユイナ、空中で何かを操作していた。


「これは、魔導士、賢者。女性の装備品はあまりそろってないらしくて。今はまだあまり戦力として数えられてないから。あ・・・じゃあ・・・・・これでどうでしょうか?」

 一瞬にして、メイドの服になった。

 マキアのものと少し似ているな。


「メイド以外は無いの?」

「うーん、あとは、これですね」

 体のラインが強調される服装だった。

 女魔族らしいけどな。


「わー肌が出てる・・・。ダメダメ、もっとほかに、人間っぽくない服装を・・・」

 指を動かしながらぶつぶつ話している。


「な、ないみたいです」

 胸元を押さえながら言う。


「なるほど、異世界住人の好みだね。リョクがやるなら、課金するレベルだ」

「これでいいですか? ちょっと、太ももが透けていますが」

「別にいい。魔族に不審に思われなければな」


 ユイナのアバターは完成されていた。

 どこからどう見ても人間にしか見えなかった。


「それしかないなら仕方ないけど、ヴィルを誘惑するのはナシだからね」

 サタニアが俺とユイナの間に入った。


「はい・・・ヴィル様を、誘惑? ですか?」

 首を傾げていた。


「まぁまぁ、サタニア」

 エヴァンが軽く笑いながら、サタニアに近づいていく。


「何よ」

「どんなに縛り付けても、人の思いって変わらないらしいよ。昔、俺の推しが言ってた。名言でしょ?」


「うるさいわね。ガキが」

「残念。俺は過去に経験済みだからな」

「へぇ、どんな経験? 言ってみなさいよ」

 エヴァンとサタニアがいつものように罵り合っていた。


 ユイナは命の数のことは知らなそうだな。

 なぜユイナだけが女性で異世界転移できたのか、本人もわからないようだ。


「あ・・・魔王城って意外と騒がしいんですね」

「こいつらが、仲が悪いだけだ」

 ユイナに視線を向ける。


 リュウジの言っていた体の弱さは感じない。

 アバターは向こうの肉体の状態を引き継がないのか。


「魔王城にいれば、きっと死ぬチャンスはある。頑張らなきゃ。死ぬために」

「・・・・・・・」

 ユイナがこぶしを握り締めて、自分に言い聞かせていた。


「じゃ、俺リョクのところ行ってくるから」

「あ、エヴァン」

「あとはよろしくー」

「自分だけ・・・・もうっ」


 エヴァンがドラゴンになって、部屋から出ていった。


 どこか精神的に自信ないところが、体の弱さを引きずっている部分なのだろうか。

いつも読んでくださりありがとうございます。

1週間程度休息して再開します。

今後ともよろしくお願いします(*^^*)

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