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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第一章

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132 11年前の記憶②

「勇者様と仲良くするために、露骨にヴィルばかり贔屓して」

「そのうち、自分もダンジョンに行ってみたいなんて言うんじゃないかしら」

「そう、だってあの子、元々ギルドに入りたいって言ってたでしょ」

「体が弱いのも演技だったりして」

 シスターたちが廊下でこそこそ話していた。


「どいて」

「!?」

「・・・・・・・」

 声をかけると、ドアを塞いでいたシスターたちが掃けていった。

 人間は腐ってる。


 施設にいると、マリアへの悪口が聞こえてきた。 

 いつも普通に話している奴らなのにな。



「あいつ、また本読んでるよ」

「本だけ読んでたって、魔法は使えないのにな」

「はははは、友達いないからだろ」

 同い年の子供から、俺は嫌われていた。


 オーディンの息子だということが、気に食わないらしい。

 少しでも魔法を失敗すると、ものすごい勢いで責められて笑われた。


 飲食さえどうにかなるなら、こんな施設、出ていきたかった。

 あとは・・・。


「ヴィルー」

 マリアが駆け寄ってくる。

 ピンクの髪は、深々と被ったフードに隠れていた


「寝てなくていいのか? 体調悪いんでしょ?」

「もう大丈夫。昨日、遅くまで外にいたからだと思うの。無理しすぎちゃったかな」


「だから施設に戻ろうって言ったのに」

「いいの、勇者様もマーリン様も見られて楽しかったんだから」

 椅子を引いて、隣に座ってきた。


 勇者オーディンは民衆に囲まれながら、城の中に入っていった。

 ギルドらしき集団からは、オーディンを称えるような言葉が聞こえてきた。


 どうしてあんなに大勢から好かれるんだろうな。


「マリアはどうしてオーディンが好きなの?」

「す・・・好きって、別にそうゆう意味じゃなくて」


「?」

 なぜか戸惑っていた。

 ちょっと、赤くなっているようにも見える。


「憧れてるの。私は冒険、諦めなきゃいけなかったから。もし、健康な体だったら魔法をたくさん覚えて、行ってみたかったな」

「魔族を倒しに行くの?」

「そうね。悪魔とか、見たことないけど。倒したりするのかな。それでね、ダンジョンに行って宝を持ち帰ってくるの」

「ふうん」

 本のページをめくる。


「じゃあ、俺、将来魔族になるよ」

「え?」


「マリアは弱いから、誰かを倒さなきゃステータス上がらないだろ? 俺がやられたフリをしてやる」

「ふふ、ヴィルは大きくなっても私のこと好きでいてくれるの?」

 くすくすと笑いだした。


「マリアが好きというより、人間が嫌いだからな」

「私も人間でしょ?」


「マリアは人間だけど、普通って感じだ」

「強がっちゃって。可愛いなぁ」

 頭をぽんぽんと叩いてきた。

 すぐこうやって子ども扱いする。マリアだって子供なのに。


「私のことは気にしないで。そうね・・・じゃあ、将来、ヴィルが大きくなって、私みたいな女の子が現れたら・・・」

「別に、いらない、そんな話」

 会話を遮った。


 マリアは、よく自分がいなくなったらって話をする。

 病気で気が滅入ってるんだろうけど、聞きたくなかった。


「ヴィル、勇者様がいらっしゃったわよ」

 急に、普段話さないシスターが話しかけてくる。


「おうおう、ヴィル、楽しそうにしてるな」

「げ、オーディン」

 本にしおりを挟む。


「マーリン様も」

「こんにちは。ヴィルか、随分大きくなったな」

「だろう。ついこの前まで赤ちゃんだったのに」

「ははは、そうだな」

 マーリンは背の高い女性だった。


 オーディンの活躍に彼女は欠かせないのだという。

 あらゆる魔法に精通していて、彼女の右に出る魔導士は存在しないとも言われている。

 元々魔力の少ないマリアに、自分を癒すための回復魔法を教えた人だ。


「顔色がいいね」

 マリアのほうに近づいて、屈んでいた。


「マリア、調子はどうだい?」

「はい、元気にしています」

「そうか」

 後ろにいたシスターが冷めた目で、マリアを見つめている。


「お前はこっちだ」

 オーディンが大きな腕でかついてきた。

 じたばたしたが、びくともしない。


「うわっ離せよ。ギルドに行ってきたらいいだろ?」

「一応な、言わなきゃいけないことがある」

 

「勇者様・・・・」

 マリアが立ち上がってついてこようとした。


「ちょっとこいつ借りるわ。夕暮れ前までには返しに来るから」

「・・・かしこまりました。お気をつけて」


「嫌だよ。剣なんて持たないからな」

「わかったわかった。今日は話をするだけだって」

 かなり不満だったが、力でオーディンに敵うわけがない。

 抵抗も意味はなく、流されるまま、アリエル王国の丘のほうまで来ていた。


 ドサッ



「いった・・・・」

 いきなり芝生に下ろされた。


「重くなったな。ヴィル」

「・・・・・なんだよ、話って。どうせすぐにどっか行くんだろ?」

 土を払いながら言う。


「マリアに依存するな」

「は? なんでそんなこと言われなきゃ・・・」

 深い目でじっと見つめてきた。


「マリアの命は長くない。じきに尽きる」

「っ・・・・」

 オーディンがマントを後ろにやって、隣に座った。


「マリアもそのことは知ってる。今、マーリンが治療していると思うが、延命的なものだ。病気を完治させることはできない」

「聞いてない、そんなこと」

「施設で知っているのは、施設長のシスターのみ。後は誰にも言っていないらしい、が、もうじき皆も知ることになるだろ」


「な・・・何言ってるんだよ」

 背筋が冷たくなっていった。


「強くなれ。魔法も剣も、強くなればギルドに入ることができる。クエストをこなして、実力を伸ばせば、ちゃんとお前のことを見てくれる人も現れる」

「そんなこと、どうでもいい・・・オーディンは、勇者なんだろ? マリアは救えないのか?」

 思わず、オーディンを揺さぶった。


「勇者は人間が付けたあだ名だからな。俺は、そんなたいそうな人間じゃない」

「・・・・・・」

 マリアが死ぬだなんて・・・考えられなかった。


 だって、さっきだって元気に話しかけてきたし。

 体の力が抜けていく。


「俺は、これからSS級の中でもかなり上位にある、ダンジョンを目指す。行かなければならないところでな、危険がゆえに避けてきた場所だ」

「は?」

「やっと、力がついたということ。時期が来たんだ」

 オーディンが目を細める。


「だからなんだよ」

「しばらく戻らないだろう。住んでいる魔族が強いのもあるが、未知のダンジョンだ。無事に帰ってくる保障はない、今回ばかりは、マーリンも全員での帰還は難しいだろうと予測している」

「・・・・今更・・・」

 足元に転がっていた小石を投げる。

 丘からは、賑わっている城下町が見えた。


「マーリンの未来透視だと11年後、魔王が現れるらしいしな」

「どうでもいい」


「ヴィル、俺が憎いか?」

「・・・・興味ないだけだ」

「はは、愛情の反対は無関心だ。俺もといるより、お前よりアリエル王国の勇者でいることを選択したから、当然の結果だな」

 軽く笑い飛ばしていた。


「お前の母親はお前を捨てた。俺も、お前の傍からいなくなる。マリアもじきに、だ」

「今更・・・・・・・」


「だから、強くなれ。ヴィル」

 勝手なことを、父親みたいな口調で話していた。


「悪かったな。子供らしく扱ってやれなくて」

「・・・・」

 呆然と、アリエル城を眺める。

 すべてを、受け止めるには残酷すぎた。




 施設に戻ると、オーディンを見た子供たちが、視線を逸らしてきた。

 俺が嫌いなのか、オーディンが嫌いなのかわからないが、嫉妬深い奴らだ。


 明日から、また鬱陶しいほど無視されるんだろうな。


「マリアは?」

「医務室です。マーリン様と一緒にいます」 

「ありがとう」

 オーディンの後をついていく。

 マリアとマーリンがベッドで話をしていた。


「ヴィル、帰ってきたのね」

「・・・・・・」

 マリアの命があと少しだなんて・・・。


「勇者様、また、SS級クエストに挑戦されるんですね」

「あぁ、かなり難解なクエストだ」

 親父がマリアの横に座った。


「デガン様とグリース様は?」

「もちろん一緒だ。俺たちは4人でチームだからな」

「腐れ縁ってやつだ」

「ふふ、そんなこと言えるの、マーリン様だけですよ」

 マーリンが言うと、マリアが楽しそうに噴き出していた。


「ダンジョンクエストってどんな感じなのですか?」

「場所にもよるな? オーディン」

「まぁな、魔族もほとんどいなくて楽なところもあれば、迷路に迷い込んだり、仕掛けに翻弄されたり、この前の肥溜めみたいな罠に引っかかったのは最悪だったな」

「お前とデガンが勝手に進むからだろうが」


「ふふふ、面白そうですね」

 マリアが目をキラキラさせながら、2人の掛け合いを見ていた。


 オーディンとマーリンが来ると、急に子供のようになる。


「あ、SS級のダンジョンに行く途中、勇者様が火事を起こしそうになった話を聞かせてください」

「またその話か」

「いいじゃないか。あれは私がいなきゃ、収まらなかったんだぞ。二度とやるなよ」

「マーリンまで。じゃあ仕方ない。話すか」


「お願いします」

 ひどくつまらない話を、何度も何度もお腹を押さえて笑いながら聞いていた。

 自分が行けない冒険の話なんか、何が楽しいのかわからないが・・・。


 医務室には何もなかったように、3人の笑い声が響いていた。

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