表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

138/594

130 欠けたもの

「ヴィル、本当にもう戻っていいの?」


「あぁ」

 サタニアが転移魔法を展開しながら言う。


「はは、悪いことした後の、夜逃げみたいだな」

「夜じゃないけどね」

 エヴァンに、サタニアがつっこんでいた。


「お前らはどこにいたんだよ」


「俺はちょっと調べものがあってね」

「僕はアエルの言う通り、離れたとこで待ってましたよ」


 聖堂は、俺が起こした炎に戸惑う異世界住人で、騒がしくなっていた。


 ピュイア王女もサンフォルン王国の王子もどこに行ったのかわからない。

 式は完全に中断されて、消火作業にあたっていた。


「面白かったですね。混乱に乗じて去ってしまうのが勿体なかった。もっと大混乱が起きることを予想していたのに、まさか魔王ヴィルがあれくらいで抑えるとは」

「・・・・・・」


「正直、想定外でした。でも、とっても楽しかった。ありがとうございます」

 アエルが満足げな表情を浮かべて、拍手してきた。



「早急に魔王城に戻って空いたダンジョンに魔族を配置しないとな」

「焦る気持ちはわかるけど、そんなに急がなくていいんじゃない? あの感じだとアース族とやらも、かなり時間かかりそうじゃん。火事の一つも消せないんだもんな」

 エヴァンが軽い感じで言うと、リョクが覗き込んでいた。


「エヴァン、どうした? 悲しそうだぞ」

「え、いや・・・・」

 リョクはエヴァンに表情に関して、やけに鋭い。


「弔ってやったのか?」

「いや、死体もないしな。もともと腐った王国だったんだ。奴らは馬鹿だけど、きっと、住み心地のいい世界に転生できるさ」

「そうか」

 リョクが、きょとんとしていた。


「では、私はここにいますね。アリエル王国の堕天使ですからね、基本的にはこちらが拠点なのです。本来だったら、私も皆様と魔王城に行きたかったのですが、残念です」

 アエルが一歩下がったところで髪をかき上げていた。


「リョクをありがとな。どうせ、ここに来ればいるんだろ?」

「もちろんです、ぜひ遊びに来てくださいね。しばらくは異世界住人、アース族を眺めながら楽しみたいと思います。会いたくなったら会いに行きますね。あ、私がここにいることは強制じゃないんですよ。堕天しましたから」


 クククク、と笑っていた。


「もう会話は終わったかしら?」

 サタニアがちょっとイライラしながら言う。


「あぁ、頼む。サタニア」

「じゃあ、転移させるわね。魔法陣から出ないように」

 サタニアが何かを唱えて魔力を高めていった。

 セラが、サタニアの背中に近づく。


「魔王ヴィル」

「なんだ?」


「私はいつでも貴方の味方ですよ」

「・・・・・・」

 アエルが笑みを浮かべた。


 黒い翼が太陽を遮った瞬間・・・・。



 シュン



 魔王城の屋根にいた。

 特に移動したときと、何の変化もないな。


「はぁ・・・疲れた・・・お風呂に入って、寝ながらぐうたらしたいわ」

 サタニアが手を下ろして、息をついていた。


「はは、サタニアに似合うな。その姿」

「茶化さないで。エヴァンはどうするの?」

「ふわぁ、俺は、リョクの部屋に戻って寝たいな。色々あって疲れたよ」

 あくびをしながら言う。


「エヴァン、ちゃんと掃除を手伝うんだぞ。怠け者は嫌いだからな」

「はい・・・」

 リョクがぴしっと言うと、エヴァンがしゅんとしていた。


「セラ、動けるか?」

「はい」

 セラが前に出て、身を屈めていた。


「なるべく早く上位魔族を集めろ」

「かしこまりました」


「えー、そんなにすぐ、仕事に戻っちゃうの? せっかく帰ってきたばかりなのに」

「そりゃそうだ。とろい感じはあったが、人間がいつ攻めてくるかもわからない」


「うぅ・・・もう・・・・」

 アリエル王国が攻略したダンジョン・・・か。

 あれだけ、人間たちが躍起になって攻略していたものを。

 異世界住人の転移によって、価値観が変わってしまったな。

 




 アリエル王国のものだったダンジョンへの魔族の配備は、驚くほどスムーズだった。

 もともと、取り上げられたダンジョンの傍に、魔族たちがひっそりと暮らしていたらしい。


 喜びの声が上がっていたが、気を引き締めるように言った。

 今は、ププウルの地図を元に、上位魔族がそれぞれ部下に指示をしている。


 問題があれば、明日には俺に伝えるように言ってあった。

 こんな形で、ダンジョンが魔族のもとに戻ってくるとはな。


「・・・・ここにいたのか」

 部屋に戻るとサタニアが窓の外を眺めていた。

 夕焼けの光が差し込んでいる。


「探してくれたの?」

「一応、お前も魔王代理の上位魔族だろ」


「そうね。私の担当もあるの?」

「いや、今はカマエルたちの割り振りでまとまってる。シエルがいることで、大分余裕ができてるらしい。見る限りだと、上位魔族の補充も必要なさそうだな」


「この時間軸では、人間にダンジョンを攻略されちゃったのにね」

「これからは違う。俺が魔王だからな」

「うん・・・」

 ソファーに座ると、サタニアが近づいてきた。

 紫色の瞳がキラキラしている。


「ねぇ、ヴィル」

「なんだ?」

「そんなに、嬉しいものなの? アイリスに会うって」


「・・・・さぁな」

「私にごまかしは通用しないんだからね」

 唇をなぞりながら言う。


「・・・・サタニアは、愛がわかるか?」

「ヴィルよりはわかるつもりよ」

 サタニアが横に隣に座って、顔を近づける。


「もう一度してみる・・・?」

「・・・・・・」

 右手でサタニアに触れようとしたとき・・・。


 トントン


「魔王ヴィル様、サタニア様、先ほどはセラを・・・・あれ?」

 マキアがバタバタしながら、勢いよくドアを開けてきた。


 ササッ


 間一髪のところで、サタニアが離れていた。

 風のように素早くて、マキアの目には留まらなかったらしい。


 さすが、元魔王だな。

 サタニアにしか、この動きはできないだろう。


 戦闘で、今の素早さを発揮できればいいんだけどな。


「どうしたの? マキア」

 何もなかったように話す。


「今、サタニア様の髪が魔王ヴィル様の傍に・・・・あれ?」

「私はこっちのソファーで本を読んでたわ」

 サタニアが立ち上がって、マキアに寄っていった。

 サタニアの手には、魔王城の本棚にあった、古書が握られている。


「セラのことがあったから疲れてるんじゃない?」

「そう・・かもしれません。あ、セラのことありがとうございます。私、またセラが自分の目の前からいなくなったらどうしようって、そればかり考えてしまって」


「セラは助かったんだから気にするな。セラの体調は大丈夫?」

「はい、人間の匂いがついてしまったらしく、お風呂に入っています」

 二人の会話を聞きながら、アイリスのことを考えていた。



 最愛の者か・・・。

 腕を見ても、何も変化は無かった。脈も正常だ。


 あの魔法はアイリスに触れる時しか反応しないのか?


 趣味の悪い呪いだな。

 俺を孤立させるためにかけたのだろうか。


「・・・・・・・・・」 

 無駄なことを・・・。

 俺は、人間だったときも、魔族になってからも、愛を意識したことはない。


 それは、誰と肌を合わせようと同じことだ。

 どうせ、消えるものだからな。 

 


 手を握りしめる。

 愛などというものを、俺は知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ