125 アリエル城⑨
「えっと・・・異世界住人? こっちではアース族って言うんだろ? 俺と同じだよ。こんなふうにアバターを持って、この世界に転移するんだ」
ユウスケが自分の腕を見ながら言う。
「ゲームと似てると思っていいのかしら?」
「ゲームって・・・なるほど、向こうの世界のことも聞いてるのか。じゃあ、俺たちの世界に魔法がないことも知ってるってこと?」
「・・・・・」
剣を突き付けられているのに、なぜか余裕な表情だった。
呼吸の乱れ一つない。
「ご主人様・・・」
「大丈夫だよ、クーリエ。この体はアバターだ。向こうに肉体があるし、ここで何かあっても、今はまた戻ってこれるって聞いてる」
ユウスケが空中で指を動かして、何かを見ていた。
「・・・・・へぇ、やっぱり最初はレベルが低いよな。使える魔法も・・・剣技が多いか。剣士を選択して来たからな。職種って変えられるのか?」
「何してるの?」
「ステータスチェックだよ。お、回復薬持ってるんだ。毒消しと・・・武器はないのか」
ぶつぶつ呟いていた。
クーリエがサタニアを警戒しながら、ユウスケに近づく。
「あいつには何が見えてるんだ?」
「おそらく、現在の自分のステータスだと思う。ヴィルの魔王の目と同じようなものだよ」
「異世界のゲームと、同じ仕組みね」
「あの感じだと、俺たちのステータスは見えてないんだろうな。魔王がここにいるって知ってたら、あんな悠々とチェックできないでしょ」
エヴァンが腕を組んで、説明していた。
キィンッ
「ご主人様!」
いきなり、サタニアが剣を振り下ろしていた。
「うわっ・・・何するんだよ」
「よく止めたわね」
キンキンキーンキン
「異世界住人がこの部屋を出る前に、片っ端から殺していくわ」
「な・・・・も、もう始まってるのか?」
サタニアがすぐさま攻撃を繰り出す。
ユウスケは壁に立てかけられていた剣を取って、サタニアの攻撃を受け止めていた。
かなり早い。目にも止まらない速さだった。
人間が受け止められるようなものではないんだが・・・。
「どうして・・・・? 私の攻撃を受け止められるの?」
サタニアが天井を蹴ってスピードを上げていたが、すべてかわされていた。
「俺もさっぱりわからない。体が勝手に」
両手で剣を持って、正面から剣を弾いていた。
― 空のシールド ―
パァン
「そこまでです!!」
「っ・・・・」
クーリエがユウスケとサタニアの間にガラスのようなシールドを張った。
サタニアが軽く飛んで、こちらに降りる。
「どうして、私の攻撃が・・・?」
「ここは異世界住人の待機場所となっていますので、今のような接触は無効となります。お気を付けください」
「え・・・?」
「あーなるほどなるほど」
アエルが頷いていた。
魔女の剣をかざして、刃を確認する。
「どうゆうことなの? 私の攻撃が弱かったわけではないわ。剣に何かされている感覚もない」
「あの魔法陣ですね。どうもこの部屋はすべての力が均衡になるよう調整されているようです。簡単に言うと、ここで異世界から来た者を殺せないみたいですね」
アエルが翼で魔法陣を仰いでいた。
「ははは、すごい力です。軽く翼で仰いだだけでもびりびりと感じますね。誰が描いた魔法陣でしょうか・・・・」
「異世界から入ってくる者たちを、ここで防ぐことはできないのか」
「そうね。悔しいけど、かなり本気を出しても空を切るようだった」
ユウスケとクーリエのほうを見る。
クーリエがユウスケに、俺たちのことを説明しているようだった。
「まともな戦闘は、結婚式とやらを待つしかないな」
「そのようですね。くくくく、テラの力には驚かされますね。執念といいましょうか」
「どこでこんなモノを・・・・」
エヴァンが魔法陣を見つめながら、顎に手を当てた。
「異世界・・・ってなんだ?」
「リョクは気にしなくていいよ」
「え? でも・・・」
「リョクは魔族なんだから、魔族のことだけ気にしていればいい。魔族が好きだろ?」
リョクが少し驚きながら頷く。
魔法陣に近づこうとするリョクを、エヴァンが強い口調で引き留めていた。
「うん。そうだね」
「・・・好きなもののことだけ、知っていればいいよ。リョクにはそうゆう世界が似合う」
「・・・・・・」
エヴァンがリョクを見ずに言う。
「本当、厄介ね。ここで止めてやろうと思ったのに。でも、どんな奴が来るか、待ち伏せるくらいはしておこうかしら。せっかく、ここにいるんだから・・・」
魔女の剣を解く。
「クーリエ、回復ありがとう」
「ご主人様と冒険するために勉強しましたから」
「俺のため・・・マジか。異世界って最高に楽しいな」
「はい!」
ユウスケとクーリエが楽しそうに話している。
「っ・・・・・」
「あれ、見ながら待機するのか?」
「付き合いたてのカップルって、見るに堪えないよね」
エヴァンがため息交じりに、サタニアの方を見る。
「でも、あの子だけじゃないんだろ? サタニアにも声かけてたし、ギャルゲーみたいじゃん」
「ギャルゲー?」
エヴァンの言葉にリョクが首をかしげていた。
「で、出るわよ。あの二人見てると、もぞもぞするわ」
「サタニアが、異世界の住人待ち伏せるって言ったんだろ?」
「止めたわ。いいのっ。早く、聖堂に行きましょう」
サタニアが強引に引っ張ってくる。
「リョク、俺たちも行くぞ」
「あ、うん」
4人で廊下に出て、ドアを勢いよく閉める。
アエルが後からふわっと壁をすり抜けて、ついてきた。
「なんか疲れたな」
「ほとんど何もしてないのにね」
深く息を吐く。
「はいはい、皆さん落ち着いてくださいね。落ち着いてますか? じゃあ、いいんですけど」
「・・・・・・・」
「状況整理して、冷静になりましょうね」
アエルがぱんぱんと手を叩いた。
「冷静にって・・・そんな冷静になれないよね。異世界から何人来るつもりなんだよ」
「エヴァンは異世界? が嫌いなのか?」
「そうだね。大嫌いだよ」
リョクが不安そうに、エヴァンとサタニアを見ている。
「異世界からあんな感じで人間たちがどんどん転移してきますよ。もう、止められませんね」
「最悪ね」
「まぁ、向こうの人間が異世界に求めることって、あぁゆうことだよね。自分を全肯定してくれる存在に囲まれて、才能を認められたいとかさ」
「・・・そうね・・・・・」
サタニアが瞼を重くして頷く。
アイリスが異世界住人を導く聖女?
抽象的すぎてわからないな。
何のために・・・。
「魔王ヴィル様?」
紺色のローブを着たアイリスが歩いてきた。
「アイリス」
「・・・・・!」
サタニアが髪で顔を隠しながら後ろに下がる。
「異世界住人の様子を見に来たのか?」
「そう。私は彼らの導きの聖女だから、結婚式の前に、こうして異世界住人の方々と顔を合わせようと思って・・・・」
「テラに言われたのか?」
「ううん、私は自分の意志で動いてる。魔法陣の様子も見ておきたくて」
「い、今は、やめておけって」
アイリスが開けようとしたドアを思いっきり押した。
「魔王ヴィル様、私は目的を果たさなきゃいけない。何があっても」
「目的って、いや、そうじゃなくて・・・」
「ごめんなさい・・・」
アイリスが口をつぐむ。
アエルが後ろを向いて肩を震わせていた。
面白がってるな?
「魔王ヴィル様、詳しいことは、今は言えない。とにかく、入るわ」
「ちょ・・・・」
アイリスが無理やりドアを開けた。
しんとしたところに、クーリエとユウスケの甘い声が響く。
ばたんとドアを閉める。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
アイリスがすうっと息を吸った。
「何してるの? クーリエも、異世界住人も、何やってるの!? ねぇ、魔王ヴィル様」
「知らねぇよ」
「あ、あんなの聞いてない。ラッキースケベイベント? ラッキーでもなんでもなく、ナチュラルに行われている確率が100パーセント・・・」
「だから、開けないほうがいいって言っただろ?」
「ねぇ、もしかして、魔王ヴィル様起因のラッキースケベイベントが発生したとか?」
「落ち着けって。俺は関係ない」
アイリスがぐいっと胸倉をつかんでゆすってきた。
「う・・・・こうゆう分野記録に無い、ショートしそう・・・」
顔を真っ赤にして、硬直していた。
なんか、元のアイリスだな。これじゃあ・・・。




