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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第一章

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115 導きの聖女

「人間か・・・?」

「・・・アリエル王国の住人?」

「十戒軍か? でも、力は感じないな」

 エヴァンが前のめりになりながら言う。


「・・・・・・・?」

 リョクが素に戻ったエヴァンを見て、少し驚いていた。

 もう、ドラゴンになりきるのは無理があるだろうな。


「アエル、向こうに移動したいんだが」

 透明な網に手を置いて、目を凝らして先のほうを眺める。

 ずっと遠くのほうから、人間たちが、こちらに向かってくるのが見えた。


「はいはい、もちろんです。これから面白いものが見られそうです」

「面白いもの?」

「ふふふふ・・・見てからのほうが早いでしょう」

 後ろから、アエルの声が聞こえた。


 俺たちを捕らえた網が、ふわふわ浮きながら移動し、噴水の前で止まる。

 ここは数年前に建て替えられた、教会の前だ。


「ここで待っていてくださいね」

 アエルが楽しそうに飛んでいた。

 体勢を整えてから網に指を引っ掛ける。


「アエル、消えた人間はどこに行ったんだ?」

「消えたので知りません。この世界中どこにもいないのですから、そうですね・・・。異世界転生でもできたらいいですね。はははは、そのお二人のように」

「・・・・・・・・・」

 エヴァンがアエルを睨みつける。


「どうしてアエルはそんなに詳しいの? 異世界のことまで」

「私は堕天使ですから」

「でも、この世界の・・・でしょ? なんで転換期だとか、異世界のことまで情報を持って・・・・」


「エヴァン、貴方が何者なのかも知っていますよ」

 アエルが鋭く言うと、エヴァンが黙った。


「もし、誰にも話していけないことなら、私にあまり強く出ないことですね」


「・・・・ヴィル?」

「・・・・・・」

 この場所は、マリアがよく来ていた場所だった。

 奇跡の噴水・・・何が奇跡か知らないが、そう呼ばれる噴水だ。


 どうしてここに?


「アエルはどうして堕天したんだ?」

「色々あるけど率直に、人間が嫌いなんですよ。ここの住人は気づいていないようですけどね。醜い部分が目立つ・・・この王国の人間は堕天使が見守るのにふさわしい国です」

 アエルの目からは、失望を感じられた。 


「聖書では・・・」

 エヴァンが急に前のめりになった。


「神に背いた天使が堕天すると書いてあったけど?」

「神ですか。まぁ、この世界で天使や堕天使は独立した存在ですからね。常に、自由の身です。神は関与しませんね」

 アエルが自分の翼を整えながら言う。


「ふうん、そうなんだ」

「エヴァン、貴方はわかってて聞いてますね?」


「バレた?」

「ククク、いい度胸ですね。嫌いじゃありませんよ。ヴィルのことよろしくお願いしますね」

 エヴァンが網を掴みながら、笑っていた。


「そうこうしている間に人間が来てしまいました。声は極力出さないでくださいね。静かに眺めてみましょう」

 アエルが霧のように消えていく。




 人間どもが城から近い教会に集まってきた。

 30名ほどだろう。ギルドの者もいたが、全員ではないな。


「本当に人間が消えるとは、迎え入れる準備ですか」

「計画は既に始まってるのですね」

「ここで新たなことが始まる・・・・」

 人間たちが話していた。


「そうですね」

 十戒軍なのかもしれない。

 先頭にいるのは、女か。


 この網、光の加減で視界が遮られるな。


「皆さん、手を取り祈りましょう。誰もがみんな平等な、理想郷を築き上げるため」

 フードを被って両手を伸ばしていた。


「おぉー」

「俺たちは生まれ変わるんだ。異世界の方々を快く迎えよう」

「まずは聖女様の言う通り、奇跡の噴水の前でお祈りしましょう」

 20代から30代くらいの男女だ。


 子供や老人は、一人もいない。

 何を根拠に選ばれた人間なのかわからないが、選民意識が高いことは伝わってきた。


 噴水の前でひざまずき、祈り始める。

 中心にいる少女が唱えているのは、詠唱にも似たような言葉だ。


 魔法をかけているのか?


「くだらない」

 小さく呟く。


 あいつも十戒軍の神の声を聞く者の一人なのか?


 アエルが姿を現して、少女の横に立っていた。

 本当に誰からも姿が見えていないようだ。


「・・・・・・・」

 アエルがこちらを見上げて口に手を当てる。


 黒い翼を伸ばすと、ふわっと少女のフードが取れた。

 ピンク色の柔らかい髪が・・・・。


「アイリス!?」

 思わず声を出すと、サタニアに止められた。

 ふと、少女がこちらを見上げた気がした。


 アイリス・・・なのか? 

 透明な網のせいで魔力が霞んでいて、よくわからないが、そっくりだった。


「どうしましたか? 聖女様」

「・・・・いえ、少し・・・気になることが」

「そうですか。神様の言葉でしょうか・・・」

 アエルがにやにやしながら、唖然とする俺たちの様子を見ていた。


「そんな・・・アイリスが・・・?」

 サタニアが息だけの声で言う。


「どうして、人間たちといるのか? いや、本当にあれはアイリスなのか? 聖女と呼ばれて・・・聖女? だと?」

「ヴィル、落ち着いて。静かにしないと」

「っ・・・・」

 サタニアに口を押えられる。


「今、見つかったらダメ。お願いだから、冷静になって。今はアイリスに危害が無さそうでしょ?」

「・・・・」 

 軽く頷くと、手を離した。


「さぁ、皆さん。顔を上げてください」


「はい」

「祈りの力は偉大です。皆さんの声が神様に届いたことでしょう」

 俺が間違えるはずがない。あれは、アイリスだ。


 でも、なぜ・・・。

 あの、アイリスは人間たちに何の魔法をかけている?


「ありがとうございます。導きの聖女様」

「ここまでついて来てくれてありがとう。お城に行きましょう。長旅でお疲れの皆さんに美味しい料理を作っているはずです」

 みんなが笑顔になりながら立ち上がる。

 大剣を置いていた者も、背負い直していた。


「私が皆さんを守りますから、ご安心くださいね」


 アエルがアイリスの周りをうろうろしながら、たまに風を起こして遊んでいた。

 ピンクの髪がさらさらとなびく。

 こちらを見上げることもなく、城のほうへ歩いていった。 




 パチパチパチパチ

 

 アエルが手をたたいて戻ってきた。


「ショーは終わりましたね。何だったんでしょうね、あの集団は」

「アイリスは操られているのか?」


「さぁ、どうでしょう。ヴィル自身の目で、確認してください」

「・・・・・・・」

 どうして、アイリスが・・・導きの聖女?


 魔王城からさらわれた後、何があったんだ?


「あぁ、翼があったほうがいいんですけど、最近生え変わりの時期で抜けやすいんですよね。あはは、すこーし多めに落としちゃいました。仕方ないです。そうゆう日もあります」

 アエルが黒い翼を消していた。


「アイリス様が、異世界転移計画に関わってるのか・・・?」

「エヴァン?」


「・・・・・それは・・・さすがに想定外だ・・・」

 エヴァンが網をつかみながら言う。


「異世界転移計画・・・? 僕は・・・」

「・・・・・・」

 リョクがぼうっと人間たちのいなくなった噴水を見つめる。

 エヴァンが青ざめながら、アリエル城のほうを向いていた。

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