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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第一章

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110 間違ってるか?

「魔王ヴィル様、先ほどは、大変お見苦しいものを見せてしまい申し訳ございませんでした」

 カマエルがメガネを触ってから頭を下げる。


 一瞬で形勢逆転し、魔族の圧勝だった。

 そこら中に、魔王城に乗り込んできた愚かな人間どもの死体が転がっている。


「人間の匂いすら一切無いようにしろ。隅々まで清掃しておけ」

「承知いたしました」

 ザガンが、下位魔族に魔王の間を綺麗にするよう、指示を出していた。


 魔王の椅子から上位魔族のほうを見下ろす。


「どうゆう状況だったのか説明してもらえるか?」

「奴らが空から降りてきたんです。幻獣のようなものに乗っていまして、降りてきてすぐ、魔王の間で戦闘になりました」

「でも、すぐに殺そうとしたのですが、なぜか力が入らず・・・」

「そうか」


「まことに申し訳ございません」

 魔族たちがひざまずいている。


 人間の中にはアリエル王国の紋章の入った剣を持っている者もいた。

 だが、剣を見る限り、城下町に出回っているもの・・・ギルドの人間が大半だろう。


 俺がアリエル王国に居たときに見た、広告で募ったギルドの連中かもな。

 あの怪しい広告、階級は不問とすると書いてあったが、こうゆうことに利用するとは・・・。 


 ここにいる人間たちは、高額報酬で、実験台にされた奴らだ。

 ただの馬鹿だったということ。


 人間の敵は、人間だな。



「顔を上げろ。済んだことだ。お前らを弱体化させてたのはこれだ」

 黒い石をポケットから出す。


「これが天井に埋め込まれて磁場を狂わせていた」

「なんと・・・」

「弱い人間がしそうなことです」

 ぴんと弾いてから、掴んでポケットに戻す。


「とにかく、気にするな。けがをしている者はリョクに治してもらえ」

「大丈夫です。魔王ヴィル様、これくらい」

「無理するな。リョク、こっちに来い」

 リョクが柱の陰からこちらを覗いていた。

 後ろにエヴァン(ドラゴン)がぴったりくっついている。


「は・・はい」

「魔族を治療してやれ」

「かしこまりました。魔王ヴィル様」

 はりきってププウルのところへ走っていった。


 魔族は自分で回復できるとはいえ、痛いものは痛いからな。

 回復魔法を使えるリョクなら、力を発揮できるだろう。


「ドラゴンが助手なの? ん、あまり見覚えのないような・・・」

「はい。最近手伝ってもらっています。エヴァンって名前です」

「ありがとう。エヴァンっていうのね」

「よろしくね」

 横のエヴァン(ドラゴン)は邪魔でしかないんだけどな。

 ププウルも懐いてるし。


 つくづく、世渡りのいい奴だ。




「あの・・・」

 カマエルとサリーが、俺と横にいるサタニアのほうを見る。


「えっと・・・魔王様が二人というと・・・どうお呼びすればいいか・・・・」

「私はサタニアでいいわよ」


「まぁ、こいつは魔王代理という感じだ。特に敵対しているわけではない」

「むぅ・・・そうだけど・・・・」

 魔王代理って言葉に、サタニアがちょっと不満そうな顔をした。


「安心して、魔王ヴィルは強いわ。まぁ、私よりほんの少し上ってだけ」

「さ、左様でございますか・・・・」

 少しだけ強がってツンとしていた。


「では、サタニア様とお呼びさせていただきます」

「よろしく」

「そうですね。言われてみれば、魔王ヴィル様に、元から仕えていたような・・・いえ・・・私ったら、すみません・・・・」

 サリーが言いながら、大剣に付いた血を拭いていた。


 この時間軸で俺の記憶は無いはずだが・・・。

 いや、俺は魔族に召喚された魔王なのだから、断片的な記憶があってもおかしくないか。


「魔王ヴィル様、少々よろしいですか?」

 シエルがふわっと近づいてきて、小声で言った。


「・・・・あぁ」

 サタニアに後始末を頼むと、嫌な顔をされたが頷いていた。

 魔王の間を眺めてから、階段を下りて廊下に出る。





「大変、申し訳ございません。アイリスが連れ去られていたことに気づかずに」

 深々と頭を下げてきた。


「魔王の間で戦闘していたときに、魔王城の部屋全て確認したのですが、アイリスの姿が見当たらず・・・」

「いつからいなくなったのかわかるか?」


「いえ、鍵は中から開かないものにしていたのですが・・・・。特に部屋が荒れている様子もありませんでした。人間の気配にも気づかず」

「そうか・・・」

 腕を組んで、窓から上位魔族の部屋のほうを眺める。


 テラが、話していたことは本当のようだ。

 十戒軍が神と崇める奴の話だ。

 奴らが魔王の間に細工していき、魔族を弱体化させた可能性が高いな。


「申し訳ございません」

「お前のせいじゃない。俺も長い間、留守にしてすまなかった」

 シエルの頭を撫でると、長いツインテールを両手で引っ張っていた。


「魔王ヴィル様は私を信頼してくださったのに・・・」

「俺のシエルへの信頼は揺らがない。安心しろ」

「・・・はい・・・」

 ずっと暗かったシエルの表情が、少し明るくなった。


「あの・・・これから、アリエル王国に向かうのですか?」

「そうだな。アイリスが奴らに捕まっている状況はかなり危険だ」

「そうですか・・・」

 しゅんとしていた。

 あからさまに残念そうな顔をする。


 でも、今回ばかりは早く行かなければいけない。

 アイリスのことがあるからな・・・。


「あ、魔王ヴィル様、私を連れて行ってください」

「え?」

「アリエル王国に一緒に参ります。アイリスを連れ戻すのに協力させてください」

 右手を胸に当てる。


「いや、今回は、サタニアを連れて行く。事情があってな、シエルはここで待っていてくれ」

「うぅ・・・やっぱり、魔王ヴィル様・・・私が至らないところばかりで、嫌いになってしまいましたか? 嫌いになって当然かと思うのですが・・・」

「違うって」

「ごめんなさい・・・」

 二つの髪をひっぱりながら首を振っていた。


「泣くことないだろ?」

「か、勝手に涙が。私、悔しくて・・・私は、ちゃんとお役目を果たせなかった。魔王ヴィル様の部下にふさわしくありません・・・」

「・・・・・・・」

 頭をかく。

 シエルの腕を引っ張った。


「えっ・・・」

「ちょっと、こっちに来い」

 魔族の視線に気を張りながら、シエルの部屋まで行く。



 バタン


「いいか? 上位魔族があんなところでめそめそするな。部下が心配するだろう?」

「ご・・・ごめんなさい」

 ドアを閉めたとたんに、シエルが抱きついてきた。


「魔王ヴィル様!」

「・・・・シエル、俺の話したこと聞いてたか?」

「はい、ちゃんと理解しています。もう皆さんの見えるところで泣いたりしないです」

 涙は止まり、にこにこしながらこちらを見上げた。

 

「魔王ヴィル様、大好きです。離れている間、私の心は魔王ヴィル様でいっぱいでした」

「・・・でも、前も言った通り・・・」

「私はきっと、魔王ヴィル様を好きであることに意味があるんです! ただ、魔王ヴィル様を愛するってだけで、生きてるって感じがするのです」

 シエルが俺の言いかけた言葉を止めた。


 さっきとは、真逆だな。

 俺が騙されたか?


「シエル・・・・」

「こうやって、魔王ヴィル様が帰ってきてくださって、本当に嬉しいです」

「・・・・・・・」

 銀色の髪は触ると、日差しに透けて見える。

 どこの時間軸に居ても、魔王城で何が起こっても、シエルは妖精のような少女だった。


「や・・・約束してましたから。その・・・魔王ヴィル様が戻ってきたら、またしてくれるって」

「あぁ、そうだったな」

「あっ・・・」

 シエルを抱えて、ベッドまで連れて行った。




「ありがとうございます。戦闘でのヴィル様も、こうゆうヴィル様もどちらも素敵です」

 シエルがこちらを見ながら、ふっと微笑む。


「・・・シエル、俺は間違ってると思うか?」

「えっ?」


「アイリスがアリエル王国に捕まってしまった。俺とサタニアがいない間に、魔王城に攻め込まれてしまった。ダンジョンもほとんどが制圧されている状態だ。だが、俺が魔王になった」

 自分の手を見つめる。


「俺は、力はあるが、よく選択ミスをする。何度も何度も、選択を間違えて・・・」


 今回はアイリスがアリエル王国の手に渡ってしまった。

 あれほど、気を付けなければいけなかったのに。


「魔王ヴィル様?」

「・・・・・・・・」

 この選択で、アイリスがどうなるかわからない。

 力を得ても、守り切れなければ・・・。


「魔王ヴィル様!!」

 シエルが豊満な胸に、抱き寄せてくる。


「シエル!」

「よしよし、大丈夫なのです。魔王ヴィル様は間違ってなんていません。すべて、正しいのです」

「子供扱いするな・・・」

「私は、魔王ヴィル様が、いろんな欲をさらけ出して、弱音を吐けるような・・・そうゆう存在になりたいのです。そのために強い上位魔族でいたいのです」

 頭を撫でてきた。


「・・・・・・」

 シエルの香りは、思考能力を低下させるな。


「魔族の王とサタニア様も認めたのですね」

「あぁ・・・まぁ、一応な」


「では、魔王ヴィル様が王なのです。王の言うことは絶対です」

「・・・神が決めた・・・ことより、俺のほうが正しいと思うか?」

「はい」

 シエルが柔らかい声で返事をする。


「もちろんです。神がいるかはわかりませんが、いたとしても、魔王ヴィル様が一番なのです」

 シルクのような肌は冷たかった。


「何一つ、間違っていません」

「そうか・・・」

 目を閉じる。

 甘い香りに誘われながら、シエルの空気に心地よく飲まれていた。

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