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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第一章

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105 囚われの魔王

 部屋のシャンデリアが微かに揺れているように思えた。


 風呂の泡の薔薇のような香りが体に残っている。

 国民はおかしくなっているとはいえ、どこの王国も贅沢な暮らしをしているな。


 月明かりはなくなり、空にぶ厚い雲がかかっていた。

 今にも雨が振りだしそうだ。


 サタニアがはっとしながら呟く。


「どうした?」

「ルークが来る」

「ルークが・・・って? あいつが?」

 表情が変わっていた。

 素早く、服を着直している。俺のほうにも服を投げられた。


「早く、着替えて」


 数分後・・・・。


 トントン


「何?」

「今、ちょっといいかな?」

「構わないわ」


 椅子に座り直していると、ルークが入ってきた。

 襟元に王国の紋章の入ったマントを張っている。


「おぉ、特におじゃまはしていなかったかな? ハハハ、サタニアはまだ子供か」

「・・・・・・・」

 金色の髪を触りながら嫌味っぽく言う。


「セクハラはいいわ。要件は何?」

「今日の夜22時から国王主催のダンスパーティーがある。サタニアと友達も是非、来てくれないかな? かしこまったものじゃなく、ラフなパーティーだ。気軽に参加してくれ」


「いやよ。どうして、魔王である私がそんなものに行かなきゃいけないの?」

「サタニア・・・友達がいて、いつもよりも強気なのかな?」

 ルークがサタニアの髪を撫でる。


「いつもはそんなんじゃないじゃないか。ちゃんと、要領よく俺の言うことを聞くだろう?」

「!?」


「・・・・・」

 サタニアの表情を見るに、こいつらの関係は、オーバーライド(上書き)された時間軸だからというわけでもなさそうだな。


「わかっているかい? ここは人間と魔族が共存する理想の国にしたい。魔族の王である君が、ミハイル国王のお誘いに乗るということは政治的に重要なことだと思わないか?」

「っ・・・・・」

「君のためを思って言ってるんだよ、魔王サタニア。君も魔王なのだから、冷静に考えると、メリットはあるだろう? パーティーはいつも通り、庶民には知らされないものだ」


「それがどうしたっていうのよ・・・・・」

「この国の上層部は魔族とも上手くやりたいってことだよ。よく考えて物事を決めるようにしようか。感情的にじゃなく、ね」



 パシッ


 ルークの手首を掴んで、睨みつける。

 握りつぶしそうなのを、必死にコントロールしていた。


「ん? お友達のほうも何か不満かな?」

 細い腕だ。殺そうと思えばすぐに殺せるな。

 小さく息を吐く。


「いや、お声がけ感謝する。是非、参加させてもらうよ」

「ヴィル・・・?」


「はははは、いいお友達でよかった。サタニアは魔王にしては少し子供っぽいところがある。あ、ドレスコードがあるからね」

「・・・・・・」

 手を振りほどいて、部屋の中に入ってきた。


「君も着替えてくれ。サイズは合うかわからないが、服はここに揃っている。まぁ、君の体型だとこの辺でいいだろう」

 クローゼットを開けて、シャツと黒い服を見せてきた。


「あぁ。わかった」

「ルーク様」

 部屋の前に3着のドレスを持った女性が立っていた。

 魔導士か。腰元に杖のようなものが見えた。


「ユミ、ありがとう。サタニアのドレスはこれだよ」

「いらないわ。ラフなパーティーなんでしょ? 私はこのままで出るから」


「そうゆうわけにいかないだろう。この3着、どれでもいいから着ておいで」

「・・・・・・・・」

 今日の夜は十戒軍で集まっていると言っていたが、嘘だろう。

 ドレスと持ってきた女も、後ろにいた女もおそらく十戒軍だ。


 こいつ・・・・最初から、こうするつもりで動いていたな。

 機嫌よく鼻歌を歌いながら、後ろにいた女に何か話していた。


「安心してくれ。君のサイズにぴったりだって。彼女はね、本職は魔導士たが、手がとっても器用なんだ」

「・・・・・・・」


「時間になったら、舞踏の間に来るように。いいね。美味しい料理も揃っているから楽しみにしていてくれ」

 ルークが湿ったような声で言うと、女と共に部屋から出ていった。

 あいつら、ステータスは高くないが、用心しないとな。




「随分と言いなりじゃないか」

 クローゼットには城の兵士が着るような服が何着もあった。

 こんな人間の服を着なきゃいけないのか。


 面倒だな。錬金して改造しておくか。


「あのルークって男がそんなに強いとは思えないけどな」

「・・・・・・・・・・・」

 サタニアが俯いてドレスを握り締めていた。


 まさか、魔王になって、ダンスパーティーに出ることになるとは・・・。

 アイリスはこうゆうの得意なんだろうが。


「・・・魔王なのにって言いたいの?」

「あぁ、そうだよ。魔王サタニアだろ? どうして人間に怯えてるんだよ」

「・・・・・怯えてない・・・」

 自信のない子供のような表情をする。


 重症だな。これは・・・。


「人間と魔族が共存だなんて正気じゃない。ここの人間、何を考えてるんだ? 他の島の情報は一切入ってこないからなのか?」

「そう、この国は正気じゃないのよ。島国だから情報もない。あの粉吸っていれば・・・国民は上の言うことをなんでも喜んで受け入れる。十戒軍は、徹底して吸わないようにしているけどね」

「だろうな」


 ベッドに座ると、サタニアが膝の腕に乗ってきた。

 一着、深い青のドレスだけ握り締めている。


「いきなり、ダンスパーティーか。面倒なことに巻き込まれたな。お前、出たことあんの?」

「・・・・一応・・・・・」

 困ったような表情を浮かべて、言い淀む。


「魔王として? か」

「そうよ。違う時間軸でヴィルが魔王だったときに、ね。この島には魔族がいないって言ったでしょう? 私が魔王って言っても、みんな信じていたのよ。他に魔王がいるなんて知らされていないんだから」


「ふうん、上手くやってんじゃん」

「この時間軸で、私がどう振舞っていたのかわからない。だから余計に慎重になるのよ。ルークの考えてることだってわからない」

 長いまつげを下に向けていた。



「せっかく、ヴィルと楽しい夜を過ごしていたのに台無しだわ」

「楽しいって、何もしてないだろうが」

「私にとって楽しいの」

 小さな唇でにこっと笑う。


「私もヴィルと何かしたら、シエルのように強くなったりしないかしら?」

「お前は、もう強いだろ? 俺よりは弱いけどな」

「ふふ、でも、私、自信が無いから・・・」

 強がりながら、怯えているのが伝わってきた。


「本当、臆病だな」

「こ、こ、怖いものは怖いの。だって・・・」

 顔を少し赤くしながら鏡の前に立った。

 ため息を付く。


「もう着替えるから・・・この話はナシよ・・・」

「はいはい」

 クローゼットから適当に服を取り出した。


 まぁ、大人しくダンスパーティーに参加するつもりなんて毛頭ないけどな。

 向こうの思い通りに動いてほしいのなら、反対のことをするまでだ。



 ふぁさー


「!」

 部屋から出たとたんに、粉を振りかけられた。


「ハッピーになれる魔法です。どうです? ハッピーな気分になってきましたか?」

 執事に微笑みかけられた。

 つくづく、気持ちの悪い国だな。


「ほら、笑顔、笑顔。ハッピーな魔法にかからないと」

 無視して視線を逸らす。


「行くぞ、サタニア」

 サタニアが深海を溶かしたような青いドレスで現れた。

 紫色の髪を後ろに流し、唇はほんのりピンクに色づいている。


 周囲にいた執事や、兵士たちもサタニアの姿に立ち止まって見とれていた。


「なんて美しい・・・」

「あの子が魔王だなんて・・・いや、魔族も人間も関係ない。ここはハッピーな国なんだからな」

「違いない。やっぱりこの国は世界一ハッピーな国だな」

 口々に呟いてから、粉を吸って息をついていた。

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