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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第一章

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103 サタニアと酒

「この国では、さっきみたいな誘拐もあるの。さらわれた子も抵抗はしない。粉を吸わされてるから」

「まぁ、あの光景は珍しいことではないけどな。弱い魔族の誘拐もあったし」

「リョクが魔族だってわからなかったみたいだけど・・・・あの翼への反応、興奮状態、異常だわ。獣より忌々しい。虫唾が走る」

 サタニアが嫌悪感を露にしていた。


 2人で地下から出て、人間たちの様子を眺めていた。


「翼から作る粉か。そんなにすごいものなのか・・・」

「らしいわね。魔族である私たちは試したくもないけど」


 気持ち悪いこと考えるな。

 ふと、身長の高い男性がこちらに近づいてきた。 


「おうおう、ヴィルじゃねぇか」

「ん?」

「落ちこぼれのヴィルだろ。俺、ギルドにいてお前と同じく落ちこぼれてたディオンだ。アリエル王国のギルドの制度に飽き飽きして、幸福の国、ミハイル王国に行き着いたってわけよ」

 突然、聞いてもいないのにべらべらしゃべり出した。


 武器を持っている感じもないが、見る限り賢者だったようだ。

 特に見覚えのある顔でもなかったが・・・。


「そっちのめちゃくちゃ可愛いお嬢ちゃんは? まさか、ヴィルの彼女か?」

「いや、こいつは・・・」

「そうなのよ」

 サタニアが声色を思いっきり変えて、笑顔を作った。


 何考えてるんだ、こいつは?


「ハハハハ、やっぱりな。こんな可愛い子見たことねぇや。ミハイル王国で見つけたのか? じゃあ、昼間から飲める酒場でも案内してやるよ。粉吸ってから、楽しく語ろうぜ」

「そうしましょ、ヴィル」

「お前・・・」


「ちょうど、酒場を探してたんじゃない。昼から飲もう、ってね」

「・・・・・・」

 俺が心底嫌な顔をしているのに、完全に無視してきた。

 遊んでるんな?


「愛想のいい彼女じゃねぇか。羨ましいぜ。俺もここで早く彼女見つけたいな。ここは俺にとってゼロからの出発点だ」

 仕方なくディオンについていく。

 上位魔族以上にしか聞こえない超音波のような声で、サタニアに話しかける。


「どうゆうつもりだ? エヴァンたちを置いて行くのか?」

「エヴァンならどうにか振舞えるでしょ。なんか楽しくなっちゃった」

「俺まで巻き込むなって」


「いいじゃない、寄り道くらい許してくれなきゃ、連れて行ってあげないわよ。ヴィルの彼女だって。ふふ、面白い響き」

 長い髪を耳にかけながら、にやっとした。

 楽しそうに、華奢な体を弾ませている。


「ん? どうした?」

「なんでもないよ。酒場はここから遠いの」

「近いところもあるけどな。俺のおすすめは今から行くところだ。珍しい酒ばかりで美味しいんだ」

 ディオンがそうかそうかと言いながら、先頭を歩いていた。




 案内されたのは、城から少し近いところにある、大きな酒場だ。

 何の仕事をしているのかもわからない人たちでにぎわっていた。

 ディオンが手をあげて、カクテルを3つ頼んでいた。


「ククク、まさかお前とこんなところで飲むことになるとはな。人生何があるかわらないな」

 粉を吸ってから、ふぅっと息を付いていた。

 ディオンは、俺とサタニアを完全に人間だと思っているようだ。


「ねぇ、落ちこぼれのヴィルって?」

「ハハハ、お嬢ちゃんには話してないのかい?」

「うん。聞いたことないの」

  サタニア、知ってて遊んでるな。


「ヴィルも新たな人生を始めたんだもんな。さっきのは忘れてくれ。飲め飲め、ここでアリエル王国の人間と会ったのは初めてだ。俺の奢りだ。好きなだけ飲め」

「ありがとう。ディオンさん」

 サタニアがにこっとしながら、赤いカクテルを持った。


「飲めるのか?」

「もちろん。全然平気よ」

 サタニアが機嫌よくグラスを傾ける。

 明らかに酒を飲める歳には見えないんだが。まぁ、こんなんでも魔王だしな。


「俺がどうやってこの国で生計を立てているか聞きたいだろ?」

「あ・・・あぁ・・・」

 特に興味も無いし、とっとと逃げたいんだが・・・。


「語り手だよ」

「どうゆう職業だ?」

「アリエル王国の神殿の職業選択にはないもんな」


「・・・・・・」

 神殿の職業選択? 


 なぜか、引っかかるワードだった。 


「ここの連中は外の情報を知らない。サンフォルン王国はまだしも、アリエル王国なんて全然知らないんだ。いろんな人に話してほしいとせがまれてな」

 つまみの木の実を口に放り込む。


「外国の本も無いらしい。俺を賢いと、人が集まってお金を払ってくる。しまいには王国からも、好待遇を受けてさ。落ちこぼれてた頃が嘘だったみたいだ。ハハハ」

「どんな話をするんだ?」


「アリエル王国の、そうだな。ギルドに居て、はるか昔のダンジョンを攻略したときの話とかだ。あとは、そうだな・・・最近だと、魔族の話だな。こっちの人間は魔族って見たことないんだとよ」

「ダンジョンを攻略したって具体的に?」


「ギルドのこと忘れちまったのかい? まぁ、俺だって忘れたいけどな。5人くらい、賢者、剣士、アーチャー、魔導士のパーティーで行っただろうが。ギルドが強いから、上位魔族に会わない限り、ほぼほぼ負けることなんてないんだけどなー」

「なるほど」

 酒をぐいっと飲みながら饒舌に話す。

 ディオンはおそらくC級の賢者だ。この階級にまで魔族は馬鹿にされてるのか。


 今の時間軸の世界について、どうやって魔族が弱体化していったのか聞きたいんだが・・・・。


「ふはぁ・・・お酒とっても美味しいの」

「・・・・・」

 サタニアが完全に出来上がってる。

 にっぱーっとしながら、お酒を飲んでいた。


「止めとけって。もう」

「もう、せっかく気持ちよくなってきたのに。返して、私のお酒なの」

「サタニア・・・」

 グラスを取り上げると、頬を膨らませた。


 人格まで変わってるじゃねぇか。

 何が、どう、平気だと思ったんだよ。


「あっはははは、面白い彼女じゃないか」

「ふへへ、面白い彼女ー」

 左右に揺れてから、すっと立った。


「違います。私は女王なのです」


「は!? ちょっ・・・・」

 テーブルの上に立ち上がって、仁王立ちした。

 皿がカタンカタン鳴る。


「女王の力を見せてあげましょう」

「止めろって。マジで何やってるんだよ」

「むぅ・・・私、女王だから」

 すっげー真面目な顔で言ってくる。何言ってんだ?


 手を引っ張ろうとしたが、素早くかわされた。

 酔ってるのに力はそのままとか、たち悪すぎるだろ。



「お、なんだなんだ?」

「可愛い女の子が、王だって言ってるぞ」

「ひゅーひゅー、王様だー。何の王様だろうなー」

 なんか周囲の人間の注目まで浴びだしたし。

 目立つ行動を避けろってこいつの口から出た言葉だったよな?


「今こそ私の剣で人間を根絶やしにするのです。魔女のウィッチソード


 パァンッ


 サタニアが剣を出す前に、魔法を打ち消した。

 シュウウウウっと煙が上がる。


「へ?」

「・・・・・・」

 一瞬、沈黙が降り落ちた。


「はははは、楽しい飲みっぷりだね」

「今のが王の力か。やられたなー」

 周囲から笑い声が聞こえていた。拍手までされている。


「今のは、ちょっとしたマジックだ。彼女が練習中なんだ。驚かせてごめん」

「そうだったのか。思わずびっくりしちまったよ。最高じゃねぇか」

 ディオンがグラスを触りながら言う。


「えーっと、ディオン、貴重な話聞かせてくれてありがとな。お酒ももらって。じゃ、俺こいつ連れて帰るから」

「また話そうぜ。お前もこの粉吸ってからな」

「あぁ」

 サタニアを担いで、逃げるように酒場から出ていく。

 外に出てもじたばたしていた。





「ヴィル離してよ。離して、離して」

「うるせぇな。問題起こしたのはどっちだよ」

「私はつよーいの。つよーい魔族の王なの。力をみんなにい、みせちゃうんだから」

「・・・・・・・」

 今後、酒は一切禁止だな。


 エヴァンのいる地下のほうへ歩いていく。

 今、こいつを下ろすと、何の魔法を使うかわからん。人のいないところを探さなければ。


「酒癖悪いなら先に言ってくれよ」

「わるるない。わるるないんだから」

 呂律回ってないし。足をバタバタさせていた。

 路地裏の、ひとけのないところで、いったんサタニアを下ろす。


 そういや、アイリスも酒飲んだとき面倒になったな。


「何?」

「・・・いや、別に」

「今、なんか考えてたー」

「まずは、酔いを醒ましてくれ。じゃなきゃ・・・」

 背中に悪寒が走る。


 スッ・・・


「ん? あぁ、ここにいたのか」

 金髪の鼻筋の通った男性が近づいてくる。

 サタニアが、うつろな目をばっと開いた。


「さっき、酒場でサタニアを見つけたから、追いかけてきたんだよ。来てるなら言ってくれたらよかったのに」

 鼻に付くような、ねっとりした声だ。


「ルーク・・・」

「まさか、君が酒場にいるだなんて思わなかったよ。隣の子は初めましてだね。友達かな?」

「はい」

 一気にサタニアの酔いが冷めたようだった。

 呼吸を浅くして、魔力を整えている。精神状態を無理矢理正常に戻していた。


「・・・・・・」

 こいつが、十戒軍、神の声を聞く者の一人ルーク・・・。  

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