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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第一章

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101 おぼろげな交わり

 サタニアが屋根に手をかざすと魔法陣が浮かび上がった。


「瞬間転移魔法か?」

「そうよ。海を渡って飛んでいくなんて大変でしょ。私はこの世界の各地にマーキングして、転移しているの。まぁ、私ほどの繊細な魔力を持っていないと、複数人を転移させるのはできないと思うけど」

 えらく、得意げになって言う。


「エヴァン、どうした? 具合悪いのか?」

「別になんともないと思うぞ」


「んーそうですか?」

 リョクが話しかけていたが、エヴァンがぼうっとしている。


「リョク、お前はオーバーライド(上書き)で記憶を失ったりしなかったか?」

「ぼ、僕ですか?」

 緑の髪をくるんとさせる。


「んっと、僕、そうゆうのあまりよくわからなくて、あまり・・・過去のこととか覚えてないんです。こう、記憶が欠けてて・・・」

「そうか」

 リョクの過去はわからないからな。


 何かがきっかけで、記憶喪失になったのかもな。


「でも、今はエヴァンが一緒なので、大丈夫です。毎日楽しいです」

「・・・・・・」

 エヴァンが頭から湯気を出していた。

 しばらく使い物にならないな。これは。


「・・・ねぇ、私の説明聞いてた?」

 不満げな口調で聞いてくる。


「なんかすごいんだろ。とりあえず、全員魔法陣の中に入ったぞ」

「もうっ・・・いい? いくからね。転移中落っこちたって、知らないから」

 サタニアが詠唱を初めて足を鳴らすと、魔法陣が光った。




 シュンッ


 瞬きする間もなく、砂浜の上に立っていた。

 打ち寄せる波の音が響いている。


「へぇ、ここがミハイル王国のある場所か」

「すごいでしょ? これが私の得意な魔法よ。敬いなさい」

 サタニアが胸に付いたリボンをきゅっと結び直していた。 


「なんか、ダンジョンから異世界に転移したときと似ているな」


「・・・・この魔法は、私が魔王として召喚されたときから、なぜか覚えていた魔法なの。こうやって、自分が描いた魔法陣のある場所に転移する魔法」

「・・・・・・・」

「使えるものは何でも使うわ」

 サタニアが髪を後ろに流して、こちらを振り返る。



「そこにあるのがミハイル王国。十戒軍のいるダンジョンはここを真っすぐ行って、ミハイル王国を通過したところにあるの」


 海沿いに貿易港のようなものがあり、さらに奥まで行くと、丸い屋根の大きな城が見えた。

 低い城壁が続いている。

 アリエル王国とも、サンフォルン王国とも違う、シンプルで独特な建造物だ。


「私は行くのに気が進まないんだけど、本当に行くつもり?」

「そりゃ行くだろ。何しに来たんだよ」

「そ・・・そうだけど・・・・」


「サタニアだってここでは魔王なんだろ? それっぽく振舞えって」

「ちょっと警戒しているだけよ。別に怖がってるわけじゃないわ」

 むきになって言い返してくる。


 エヴァン(ドラゴン)がぶるぶるして、鱗に付いた砂を払っていた。

「エヴァン、ここは魔族がいない島になってる。リョクは翼を隠せるが、ドラゴンは目立つ。人間に変化しろ」

 エヴァン(ドラゴン)が思いっきり首を振った。


「わがまま言うなよ」

「エヴァン、ちゃんと魔王ヴィル様の言うこと聞いてほしいな」

「・・・・・・」

 リョクが言っても無駄か。

 何考えてるのか知らんが、強情な奴だ。


 サタニアがため息を付く。


「まぁ、いいわ。明日には魔法を解きなさいよ。ここは人間の来ない場所、どうせ今の時間ならミハイル王国に入れないし、そこの洞窟で一晩過ごしましょう」






「うわっ・・・誰だ? お前らは」

「魔族だな」

 洞窟の中に入ると、荷物のような袋を開けている男が三人がいた。


「サタニア、人間が来ない場所じゃなかったのかよ」

 言った傍から人間が現れた。


「魔族が? どうしてここに?」

「知るかよ。早く逃げるぞ」

 人間たちが、袋に荷物を詰め込んでいる。


「すぐにいなくなるわ。別にヴィルは何もしなくていい」


 ― 魔女のウィッチソード― 


 サタニアが冷たく言うと、剣を握り締めて、男たち目がけて突っ込んでいった。


「うわああああああ」 

「お前、早く魔法を魔・・・」

 逃げる間もなく、軽やかに3人まとめて、魂を抜いていた。

 どさっと目を見開いた人間の死体が落ちる。



「ん? なんだこの袋は?」

「こいつらは密入国者。ここに置かれている袋は大量の麻薬。幼い魔族の翼を引きちぎって乾燥させて粉にする方法らしいわ」

 魔女のウィッチソードを解きながら言う。


「汚い人間どもよ」

 細い足で蹴り飛ばして、洞窟の外に出す。


「確かに・・・これは魔族のものですね。くんくん、魔族にはただの粉です」

 リョクが麻袋に入った粉を見ながら言う。


「人間が吸うと、ほんの少しの安心感と共に幸福な気持ちになれるらしいの。ミハイル王国の人間の間ではこの麻薬が広まってる。世界一幸せな国をうたい文句にして、裏で国が進めているの。国民の判断力を鈍らせるためよ」

「へぇ・・・人間らしいと言えば、人間らしいが」

「色々ひっくるめて、不気味な国なの。ミハイル王国は」

 サタニアが投げた死体に、炎をつけていた。



「エヴァン、怖かったのか? もう大丈夫だぞ」

「・・・・・・・」

 リョクがエヴァン(ドラゴン)を撫でていた。

 すっげー、調子よくやってるな。


 ぶっちゃけ、こいつに怖い者なんて無いだろうが。


「そこのドラゴン、随分だらしない顔しちゃって」

「本当にな」

 エヴァン(ドラゴン)が目線を逸らして、尻尾を振る。


「私は手を洗ってくるわ。こんな汚い人間の匂いが付くなんて・・・・」

 サタニアが月明かりが照らす海のほうへ歩いていった。




「サタニア」

「ヴィル?」

 呼びかけると、海水で手を濡らしたままこちらを振り返った。

 アメジストのような瞳は、月に照らされるとより一層、美しくなる。


「なぁに?」


「お前にも、もしかして人間だった頃があるんじゃないのか?」

「・・・・・・」

「サタニアも知ってる通り、俺はもともと人間だ。魔王として召喚されたけどな」

 波で足を濡らしていた。


「・・・私は魔王。それ以外のことなんて知らない」

「そうか。じゃあ、いい。気にしないでくれ」

 サタニアが人間を睨みつける目は、同族嫌悪に近いものがあるように思えた。


 この島に来て、ふと、思い出したことがある。


 人間だった頃、神というものを信じていた気がした。


 職業を変更する・・・ギルドやその他のメンバーが通っていた・・・神という存在だ。

 俺は、何度もそいつに会っていた気がする。

 他の人間どもも、同じということか?


 なんだったんだ? あの、感覚は・・・。


「ねぇ、また何か考えてるの? 考えてばかりじゃ、何も見えなくなっちゃうわ」


 パシャン


 水を弾いて、首の後ろに手を回してくる。


「魔王は頭を使うもんなんだよ。人間どもから魔族を守るためにな」

「違うわ。ヴィルの場合、人間たちに復讐するためでしょ?」


「フン、サタニアには誤魔化しが通用しないか」

 サタニアの首筋に触れる。

 陶器のように、ひんやりとしていた。


「・・・・・・」

 いきなり、サタニアがキスをしてくる。


「あぁ・・・すごい。やっぱり、シエルとしてたのね・・・・えっ・・こんなことまで? か・・・かなり刺激が強い・・・・」

 顔を赤らめながら、目をパチパチさせていた。


「見るなって言ってるだろ、俺の記憶を」

「私をここに連れてきた仕返しよ」

 噛むように唇を押し付けてくる。


「・・・・・・ヴィル・・・・私、やっぱり、ヴィルが好き」

「サタニア・・やめろって・・・・」

「懐かしい感じがするの・・・どうしてかしら・・・」

 サタニアに記憶を読まれると、頭がくらくらする。

 解毒が遅れてしまったな。


「戻るぞ」

「待って」

 突き放すと、サタニアが手を掴んで引き留めてきた。


「待って!」

「なんだよ。もう、その手には乗らないからな」

「エヴァンとリョクが何かしているかもしれないじゃない」


「は!?」

 びくっとする。


「ふふ、冗談よ。さすがにそれはないわ」 

 くすくす笑って、唇に手を当てる。


「やめてくれよ。心臓に悪い」

「リョクは女魔族よ。エヴァンを誘惑しててもおかしくないでしょ?」

「誘惑って・・・」

 冗談に思えないところがな。

 リョクは純粋な場所にいてほしいし、想像もしたくない。



「・・・ねぇ、ヴィルは誰が好きなの?」

「さぁな。んなこと、どうでもいいだろ」

 サタニアがこちらを覗き込む。


「アイリスが変わって少しずつ怖くなっちゃったの? そんなに前は楽しかった?」

「別に・・・・」


「私のこと臆病だなんて言えないじゃない」

 意地悪い顔をする。


「ヴィルの記憶が見ちゃったんだから、私には隠せないわ。ねぇ、忘れさせてあげようか?」

「どうゆう意味だよ」


「ヴィルがしたことのないようなこと・・・してみる? 悪いことも、好きでしょ? 私、ヴィルとならいいかなって思ってるわ」

「サタニアは俺に依存するだろ?」


「そうね。もう、ずっと前から依存してる」


「?」

 サタニアが海の向こうを見つめながら言う。

 アメジストのような髪がさらさらと流れていった。


「なんでもない。足、冷たいね」

 打ち寄せる波が、足元の砂をすくっていく。 

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