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男子やめました  作者: 是々非々
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語れ決意を穿つは奴を

青山視点もほどほどに混ぜていこうかなって。

 ――夜、我々はクッション、タオルケット、扇風機、食料、その他さまざまな道具を携え、由佳の部屋に集結していた。部屋の主たる由佳は、一人ベッドの上に鎮座している。扇風機の風、冷房からの冷気の最上流に位置する彼女は得意げだ。


「――作戦会議よ」


 部屋の主たる彼女は、その言葉を以てガールズトークの火ぶたを切った。とはいえ、みんなオレの方を見て笑っているので、何の作戦かは聞くまでもない。

 間違いなく海水浴の話である。オレは今の時点からドキドキしていた。なんだかんだ青山と会うのは一週間以上ぶりとなるのだ。それなのに水着で会うのは、オレにとってはある種背徳的な行為に映っていた。


「えー、空が青山君を落とすために話をしたいのですが~、ここで重大発表がございます」


「ほほう、詳しく」


 楓がそう言い、みんなが身を乗り出した。


「空からとうとう、遂に女の子になりたい宣言を頂きマシターーーッ!!」


 由佳がそう言えば、みんな揃って「おおおおおーーー!!」と歓声を上げた。オレはあまりにも騒がるので、照れてしまって身を縮こめた。もはやこうなっては仕方ないのかもしれないが、あらぬところからクラス中に広まるのだろうなと、オレは遥か先のことを想像した。

 そんなオレを置き去りに、由佳は赤裸々に風呂での話を語っていく。全部が全部本心であったので、オレはそこら中をむずむずとさせながら聞いていた。身もだえるとはこういうことか。気持ちのいいものではない。


 由佳は上機嫌で「空は青山君を好きな乙女だぞ!」と締めくくれば、いよいよ場の空気は妙な気配を漂わせてきた。みんながこちらを見る目には温かな色が見え始めている。オレはひやりとしたものが背筋を通るのを感じた。


「空はぁ、青山君のどーいうとこが好きなのかな~?」


 恋愛話にうるさい紬が猫なで声で聞いてきた。オレはじりじりと後ろに下がったが、いつの間にか回り込んだ皐月に肩を掴まれた。


「ひいぃっ」


「空、教えて?」


 こちらもまた猫なで声だが、いくらか皐月の方がねちっこさに分があった。筋金入りの恋愛好きである。


「そーだそーだ、ここで青山君への想いを見つめなおした方がいいんじゃないかー?」


 紬も尋問のねちっこさを下げるつもりはないらしい。仲の良い友達だらけの女子会で、かつ深夜の妙な空気にあてられたオレは、潔く語ることにした。


「――お、オレのことをちゃんと見てくれて、優しくしてくれて、一緒にいてホッとするとこが……好きだとオモイマス……」


 他の四人が注目する中で言うには恥ずかしいことこの上ないので、オレの言葉は尻すぼみになった。紬や皐月は満足したらしく、「うきゃーっ」と奇声を上げてベッドに飛び込んだ。

 由佳が二人に次いでとばかりに絡まれているのを背景に、楓はオレの隣にやってきた。


「空、青山君にはどうアタックするの?」


「ほへ、アタック」


 オレがそう言えば、紬も皐月も動きを止めた。由佳を拘束しながらではあるが、しっかり聞き耳を立てるらしい。何ならまさぐられている由佳も神妙な顔をしてこちらをうかがっていた。


「そ。青山君は柊先輩を振ったけど、だからって空のこと好きじゃないかもしれないしさ?」


「そ……それはそうだ……うん、分かってる」


 なにせ今はそんな青山を意識させようとしているのだから。

 楓はプッと小さく笑った。


「ふふ、そんな神妙にしないでよ。私だって、圭吾に付き合ってくれーだなんていわれた時、全然好きじゃなかったんだからね。近づき方だよ、近づき方」


「な、なるほど。近づき方か」


 勝山からの話では、「一発で行けた」ということだったはずだが。奴は話を盛っていたらしい。

 それより近づき方というものに、オレは頭を悩ませた。水着で冒険して満足していたが、そういえばそれだけでは見るだけなのだ。男女仲を推し進めるには、確かにもう一押しが必要だった。


「一日は長いんだし、女子だけでずっと遊ばなくたっていいんだよ?……水着デートなんて、面白いんじゃない?」


「みっっ!!!」


 楓は猫目を細めて言った。あまりのいたずら気な笑みに、オレは彼女が猫又かなにかかと勘違いした。

 皐月や紬は拍手喝采を送っている。


「うわ~それ良いねえ。後藤さんとか桐野さんもいるんだし、なんなら楓も水着デート行っちゃう?」


 由佳がそう言うと、猫又の楓が頬を赤らめた。


「……そ、それもありかもだけど」


 ベッドの上の三人は、揃ってコーラを飲みほした。炭酸に喉を焼かれる三人は、黙って親指を立ててよこした。御託入らないということだろうか。


「私らはその間は野次馬するんで!」


「いいのかそれで、せっかくの海を」


 オレがそう聞くと、皐月は肩をすくめた。


「三度の飯より、色恋を見る方が好き。萌え」


「……そ、そうか」


「あれだよ、予定だとお昼前にはつくから、水着お披露目からご飯くらいまでなら良いかなって思ってるだけよ?皐月は海行っても入らない人だからね」


 余談だが、由佳と皐月は同じ中学出身である。皐月はむんと胸を張り、「海で濡れるの嫌いだし」と言った。勝山が家のビーチテントを持ってくると言っていたが、彼女はそこに引きこもるものと思われる。


「じゃあ決定ね。当日は空から誘うんだよ」


「……あ、あい」


 水着で会うことすらハードルが高いというのに、その上オレから誘わねばならないらしい。

 オレは何度も頷きながら返事をしたが、半ばやけっぱちの反応だった。これで青山からの反応が薄いとあらば、オレは躊躇いなく皐月とテントに引きこもること請け合いだ。

 話がまとまったと扱われたのか、みんな口々に「楽しみだねえ」とオレの方を見て言った。


「――そういえば、楓は勝山君にどんな風に近づかれたのさ」


「え」


 紬はいつだかの再現のように、楓の脇にすり寄っていく。わざわざ死角を通るように皐月が移動しているのを見て、楓も赤裸々に語らざるを得ないものなのだと見守った。

 オレの知らない勝山のアタックを聞きながら夜を更かしていく。

 海でやりたいことを語らいながら過ごしていれば、オレはいつの間にやら寝入ってしまった。

 ビーチバレーは欠かせないとか、どうせお店は混んでるからクーラーボックスにコンビニおにぎりでも詰めていこうとか、そんな話に終始していた。

 当日が楽しみだ。


 ーーー


 時を同じくして、深夜。

 俺――青山仁は、チャットアプリのグループ通話にて、様々な話を聞いていた。

 グループのメンバーは俺、勝山、谷口、西出の四人だ。勝山に誘われ、今回女子たちと海水浴に出向かう男たちである。


「――やはり恋愛絡みか、普通男なんて呼ぶか?」


 なぜか気取った口調の谷口が言った。西出は「ワンチャンワンチャン」と適当なことを抜かした。


「俺が言われたのは、ナンパ除けに何人か連れて来い、あと志龍も来るってだけだ」


 勝山がそう言えば、谷口はため息をもらした。


「はあぁぁ、そんなの青山目当てだろ!羨ましいい!!」


 全く欲を隠そうともしない谷口に、西出と勝山は大笑いした。俺もつられて少し笑った。


「志龍は女になってすっかり変わったよな。もう全然変な感じしねえわ」


 体育祭の後、「志龍やっぱ可愛いって」と吹聴していた西出が言った。谷口も「幼馴染にあんな子が欲しい人生だった」と悔しそうに唸った。


「親友ながら、ああも変わると元から向いてたんじゃねえかって思っちまうぜ。そこんとこどうなんだよ青山?」


「俺か?」


「ったりめえよお!」


 勝山は妙に気取った言い方で吠えた。


「志龍はお前のこと気に入ってんだから、そりゃあ聞きたくもなるっての!柊先輩振ったお前的に、あいつはありなのかなしなのか!」


 西出と谷口も口々にヤジを飛ばした。どうやらこの友人たちは、本気で志龍が俺のことを好きだと考えているらしい。女子にもたぶらかしてるなどと言われたが、俺にはどうにも想像がつかなかった。


「志龍は女になったが、男を好きになるものか?」


 そう言うと、谷口は「信じられねえ」と声をひっくり返し、西出は「出たな変人!」と笑った。


「あー……あいつが何も言ってないなら俺は言わねえがよ。青山はあいつのことどう思ってんだよ。それ聞いてんだろーが」


「……そうだな。志龍はいいやつだし、女子としてみたら、かなり好ましいかもな」


「ぎいいい男前が何か言ってやがるぜ!西出どう思う!?」


 谷口はどうしてか声を悶えさせた。


「ああ、選び放題ってことだ」


 楽し気な声で西出がそう言うと、またしても谷口は悶えなおした。俺が否定すれば、「じゃあ柊先輩なんて振るんじゃねえ!志龍とイチャコラしてろ!」と当たられた。「あいつにそんなことをさせる気はない」と言えば呆れられ、以降それには触れなくなった。


「まあせいぜい悶えろ谷口。俺はお前らより一歩先にいるからよ」


「勝山ぁぁぁぁ!!お前柳さんなんて捕まえやがってええ」


「落ち着けって谷口。それよか、お前も誰か狙ったほーが身のためだ」


 西出がそう言うと、谷口は「……そうかもな、そうだな」と落ち着いた様子だった。


「つーわけで俺もサマーボディー作戦で一人狙ってる女子がいるわけだ」


 上腕二頭筋に無二の自信を持つ西出がそう言えば、通話には低い歓声が鳴った。少しばかり耳障りだ。


「誰だよ、桐野か、柏木か?どっちもかわいいよなあ」


 谷口はやましさ満点のことを言ったが、西出は「いんや、違う」と否定した。


「俺が狙ってんのは日比谷だな」


「げえええええ!?日比谷って、あの日比谷か!?」


 谷口は虚を突かれたらしく、素っ頓狂に声を上げた。


「意外だなあ、俺はてっきり南原かと」


 勝山も意外そうに言ったが、西出は「南原はちっこ過ぎるな」と言った。


「知らねえかもだけどさ、日比谷って小学校の時結構遊んだんだよな。そん時から良いなって思ってたっつーかよ」


「へぇ。幼馴染ってやつか」


 勝山が言った。西出は「そうだ」と返した。


「ま、中学は違ったんだがな。久々に見たら色々拗らせてておもしれえな~って思ってさ。いっちょ俺も拗らせたのをぶつけてやろっかねと」


「拗らせたぁ?スポーツマンは清楚系が好きとかそんなのか?」


 帰宅部の谷口は、そんな無責任なことを言った。そういえば志龍は清楚系と言えるかもしれない。なら、こいつの推測は間違ってもいないもかもしれない。俺とてスポーツマンだ。


「いーや、眼鏡が好きなんだな、これが」


「うわあ普通!俺もっとやべえの想像してたわ」


「あ?もっとやべえのってなんだ、言ってみろよ」


「うわあめんどくさ、墓穴掘ったか?」


 こうして夜は更けていく。

 西出は谷口から余計な知識を授かり、勝山は独り身たちを煽り倒した。

 何はともあれ、久々に志龍と話せるのは楽しみだ。

 ……変な水着を着てこなければいいのだが。

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