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男子やめました  作者: 是々非々
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閑話:聞いてくれ、オレの話を

後藤さんと和解する前の、空と青山のお話。

 女になったオレにも動じずに平然とする男子、青山という人物は、心強い存在である。

 親友とも言うべき勝山や、その溢れる優しさと奔放な興味から交友関係にある由佳さん達とはまた違った頼もしさがあった。

 そして今日も、オレは彼とのんびり話していた。昼休みに引き続く話をする場所は通学路である。


「――それでさあ、ちょっとぶつけたくらいで痣になっててさ、いやあ日常生活送れるかなって不安になってたわ」


「……一気にたくさん重いものを持っていくからじゃないか、それは?まあ、気をつけろよ」


「ん。そうする」


 今も女子になって予想より非力になっていて、男物の服を処分するときによろけて痣を作った時の話をしたところだ。青山は目線だけこちらに向けて歩いていた。

 お構いなしにオレは続ける。


「んー、他なんかあったかな」


「結構聞いてきたが、まだあるのか」


 主にオレが女になったことによる不便のことである。たまに距離感がつかめなくてスっ転んだり、ペットボトルのふたを開けるのに気合が必要だったり、本格的に掃除しなければ肌が荒れ気味になっていたりしたことだ。たまに前との違いに打ちひしがれるのもままあることだ。

 そう思い、ふと顔を上げた。やはり、これについても気になるものだ。


「――縮んだことかなあ」


「……身長のことか?前も嘆いてたな」


 そう、身長である。今や150㎝台に突入したオレの身長は、男子基準で行くとちんまいことこの上なく、せっかく伸びていたのにと嘆いたものだ。

 しかし、今回は少し趣が違う。


「いやさ、見るもの全部大きくなってて、力も弱いじゃんか。なんていうか、怖っ!てなる時があってさ」


 無力感と言うか、なんというかそういうたぐいの感覚を覚えることがある。前と比べての話にはなるが、感覚的にはいきなり物や人が大きくなり、自分の膂力では何ともならないものが増えた。世の中力ではないと分かってはいても、愕然としたものがある。

 青山は少し考え込んだ。


「――……なるほどな。確かに心細いかもな」


「そうなんだよ。この前妹にじゃれつかれてのしかかられた時なんて、ほんとにキマッちゃって息できなかったしさ。変なのに絡まれたらヤバいって思ったよ」


「……気をつけろよ」


「おう、ありがとな!」


 夏生は筋肉質である。だからこそしっかりとした体格なので、オレは全くかなわない。妹だから笑い話だが、悪漢であれば犯罪である。与太話にもならない。

 まあ、こんな話は仮の冗談だが。


「ところで明日までの数学の宿題は終わったのか?」


 青山は話を変えて嫌なことをほじくり返してきた。昨日ボヤいたのが仇となったか。


「……帰った後のオレが頑張る」


 そう言うと、あれ結構難しかったぞと小言を挟まれた。未だ手つかずのオレには最後通告にも聞こえる。


「げっ、最近あんま授業集中できてないのに……」


「まあ、変わった後は集中できなかったろうしな。続き物の範囲は厳しいか」


 そう、オレは女体化騒ぎの後しばらくは授業に身が入っていなかった。おかげで大抵の科目はすっかり話についていけなくなってしまっていた。特にひどいのは理科に数学だ。魔法でも使いたいのかと言いたくなる。

 オレは策を講じる必要がありそうだった。


「青山、この後時間ある?」


 そう聞けば、青山は肩をすくめた。


「あぁ、あるよ。どっか入るか?」


「助かる!ちょっと行った先にカフェ的なのあった気がするから、そこにしよう」


「分かった。ついでに俺も復習する」


「へ~、真面目だことで」


「復習くらいはしとけ」


 そんな具合で、オレと青山は寄り道した。

 彼に甘えすぎかなあ、とか考えつつも、オレはこの関係を止められなかった。

 ――また、まとめて謝ったらいいかな。なんて思いながら。

以前44部分として投稿した閑話を移動させました。

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