50話 大天使襲来[6]2
「顕現せよ! 材質は銃弾をも通さぬ硝子、創造するは炎を内包する百個の球体」
その詠唱の直後、ティガウロの周辺に炎が浮かび始めた。よく見れば、周囲を硝子で包んだ直径数センチ程度の球体だった。
それらはティガウロの指揮で周囲に散らばっていき、そのお陰でユリウスも自分の体や周囲がはっきりと見える状態になった。
「ご苦労だったな」
「もったいなきお言葉でございます」
こちらに歩み寄ってくるティガウロを労うと、ティガウロはかしずきながら頭を垂れた。
その堅苦しい姿勢を止めてもらおうとも考えたが、人前である以上、近衛騎士団隊長の義父に人前ではそれ相応の礼節を持って接するよう言い含められているティガウロがそれに応じるとは思えなかった為、無駄な問答に時間と労力を費やすのをやめた。
ティガウロのルーン使用に関しても似たような理由だった。
あまりティガウロにはルーンを使用してもらいたくないのが本音ではあるが、現在の状況を鑑みるにそんなことを言っていられるような状況では無い。
「ティガウロ、敵の狙いがなんであろうとこれ以上、この国の王たる私がこんなところで足止めをくらう訳にはいかない。即刻、ここから出る手段を探し出し、マゼンタへ帰るぞ」
「お任せください。敵が例え天使だろうと、御身は私が絶対に守りぬいてみせます」
「フッ、頼りにしているぞ」
「酷いよね♪ 酷いよね♪ ボクが創ったこの空間をこんなところ呼ばわりなんて……本当に酷いなぁ♪」
突然聞こえてきた聞き覚えのある声に対し、ティガウロは警戒を高め、先程まで握っていなかったはずのトンファーを両手に握り、声の方向に向かって構えた。
先程、ある程度の範囲には硝子球を飛ばしたというのに、不思議とそちらには一つも飛んでおらず、嫌な感覚がしてならなかった。
ティガウロは相手の姿が見えないというこの状況を打開すべく、周囲に浮いていた硝子球をいくつかそちらの方に飛ばしてみた。
複数の硝子球はティガウロの指が描く指揮に従い、忠実にもその光景をありありと照らした。
そこには十や百とは到底思えないような数の天使の軍勢が長槍を持ち、一糸乱れぬ隊列を組んでいた。
銀色に輝く甲冑に身を包み、一対の白き翼を背中から生やした彼らの先頭に立っていたのは、先程自分達の前に現れた大天使ガブリエルだった。




