50話 大天使襲来[6]1
「私としたことが……敵の術中にまんまとはまるとはな……」
後悔したように顔を顰めるユリウスの視界には真っ暗な空間が広がっていた。
微かな光も無いその空間では自分の体すら満足には見ることができない。
ユリウスは手をにぎにぎして自分の感覚を確かめると、自分の腰辺りに剣があるかを確認した。
(どうやら荷物や武器の類いは取られていないようだな)
聖剣レーヴァテインの他にも他人に取られては困るものがあり、それらは常にユリウス自身が身に付けている。
意識が飛んだ際になにかが紛失したかとも考えたが、それはどうやら杞憂だったようだ。
魔導王国マゼンタの王としての証である王冠はお忍びである為、現状ここにはない。だが、それと同等以上になくしてはならないものを肌身離さず持ち歩いている為、ユリウスはそれを確認するべく、懐に手を突っ込んだ。
(どうやらこっちも無事のようだ)
しかし、安心する訳にはいかなかった。
この不思議な場所で暢気に突っ立っている訳にはいかないが、ここの出方も検討がつかない。
おそらくあの大天使ガブリエルと名乗った少年が関係しているのだろうが、こう暗くてはルーンを発動させられない。
攻撃能力が無いというのが大きな欠点ではあるものの、それ以上に対象が見えていないと使えないという欠点もユリウスのルーンにはある。
(とりあえず目隠しのようなもので視界が塞がれている訳では無いようだな……)
目元に異物が無いのを確認し、ユリウスはゆっくりと口を開いた。
「ティガウロは近くにいるか」
「ここに」
あまり大きくは無かったものの、ユリウスの声は辺りに響いた。すると、すぐに近くで声がした。
「この暗闇をどうにか出来るか?」
「お任せください」
一切の迷いなく放たれた言葉に、ユリウスは口角を吊り上げた。
そして、近くで魔力が迸ったような光の粒子が辺りに散乱していくのが見えた。
その中心地には、真剣な表情のティガウロが立っていた。




