49話 大天使襲来[5]10
だが、現実は厳しかった。
カトウは薬学と医学について本格的に勉強を始めた。
それが功を奏し、国内でも優秀な生徒が多い学校に入学し、全教科で学年トップの座についた頃だった。
カトウは轢かれそうになっているカナデを直感的に助けようとして事故に巻き込まれ、こちらの世界に来てしまった。
そんなカトウが偶然助けた五歳の家なき子。
それは、幼馴染みの妹とよく似ていて、カトウはその女の子にミチルという名前を与えた。
そして、自分が持っている金の全てをその子の養育費として、ミチルを村長に託した。
カトウはその理由を決して言わないが、なんとなくわかった。
あいつはニホンでミチルという少女を助けられなかったことを、ずっと悔いてきたんだろう。だから、あの時、カトウはついてこようとしたミチルを強く突き放したんだ。
まぁ、結局は王都にまで単身乗り込んできたミチルの熱意に負けて、今は旦那として彼女と一緒にいる訳なんだがな。
(そんなカトウにとって、ミチルを失うことになったら……どうなるかわかったもんじゃないな……)
ミチルのことを思えば、カトウと戦うのは良くない。
だが、俺にも譲れないものがある。
大天使サリエルを殺す目的は今も変わらない。だが、もうそれだけじゃない。
最後の最後、シズカが自分の命をかけてまで守ろうとしたベルが襲われている。
ベルをよろしくと、シズカに頼まれている。
ソラという魔族に体を奪われた不幸な少年を絶対に助けると彼の親友と誓った。
その魔族を探し出す唯一の手掛かりとして、ベルを渡す訳には……。
「なんだマルクト? 俺が人質取られたのがそんなおかしいのか?」
カトウに言われて、俺は右手で顔を押さえてクツクツと笑うのをやめた。
「……いや、お前のことを笑ったんじゃない。ただ、少しおかしくてな……」
「はぁ?」
その語気からは明らかな怒りが感じ取れた。だが、俺はそれを気にせずに、続けた。
「結局さ、なんだかんだ理由をつけたところで、根幹はやっぱり変わらないらしい」
「…………なんの話だ?」
「だからさ、お前がミチルを守りたいと思うように、俺もベルを守りたいんだよ。……だから、本気でこい。連中が何も言えなくなるくらいの全力で俺を足止めしてみせろ。そんで、その全力のお前を超えて、俺はベル達を助けて大天使サリエルをぶっ飛ばす!!」
俺は『具現化』で大鎌を造って構えると、カトウは二丁拳銃をこちらに構えてきた。
「今度は本気で行くぞ、カトウ。死ぬも生きるもお前次第だ。さぁ!! ミチルを守りたいって言うんだったら、俺を殺す気で来いよ!!」




