49話 大天使襲来[5]5
「俺がこっち側についた理由……んなもん俺が知りたいくらいだよ……」
「……はぁ!!?」
明らかに落ち込んだ様子を見せるカトウの本当とはとても思えない言葉に、俺は心からの怒りと驚愕を覚えた。
「お前冗談も大概に――」
「だってそうだろ? 数日前までの俺が勝手に契約した理由をさ、なんで今日の俺がわかるって言うんだよ……」
目を反らしながらも諦観したような表情を見せるカトウの言葉は、先程と違い、とても冗談には思えなかった。
「お前も知っている通りさ、昨日までの俺は俺であって俺じゃなかった。病院でレン君の様子を見に行ってお前と別れた後の俺が、大天使ガブリエルの使いと名乗った奴に連れられた時も、連れられた場所で大天使ガブリエルとサリエルって奴と契約の話をしたのも……全部俺に近しいなにかであって、俺は今の今までずっと意思を持つことなくその情景だけを見てきたんだ!! 俺がここでこんなことしている理由なんてこっちが聞きたいくらいだ!!!」
自分の顔を手で覆いながら憤るカトウに対し、俺はなんて言えばいいのかわからなくなった。
おそらくだが、目の前にいるカトウは、ユリウスの城が攻められたあの日より前の……代償で奪われたはずのニホンという記憶を持っているカトウで間違い無いだろう。
どうやって代償で失われたはずの記憶を取り戻したのかはなんとなく察しはつくが、それ以前のカトウと今のカトウがどういう状態だったのかは俺にも知りようが無い。
ただ一つ確かなことがあるとするならば、契約をした以上、カトウには履行の義務があるということだ。
「可哀想……そう思ったか?」
手で顔を覆ったまま何故か笑い始めたカトウが憎たらしい笑顔でそう言ってきた。
「別に可哀想なんて思ってもらわなくて構わない。さっきの話は事実だし、昨日までの俺が本当は心の内で何を思っていたかなんてのは、あいつという人格が消えた今となっては正解の出しようがない。だがな、俺もあいつもカトウテツヤなんだぜ? 言わなくてもなんとなくわかるもんさ。あいつとお前達の間に出来た溝……それがあいつの抱えていた悩みだった」
そこまで言うと、カトウは懐から一冊の本のような物を取り出した。
それは、カトウが高等部の頃からよく使用していたノートというものによく似ていた。
だが、装丁が少し厚いように思えた。




