49話 大天使襲来[5]1
〜十年前〜
「なぁ、カトウ。ちょっとした質問なんだけどさ……」
自分の席で静かに本を読んでいたカトウが、頬杖をつきながら気だるそうに質問してきたマルクトに顔を向ける。
「お前時々オーケー? ってよくわかんない言葉使ってるけどさ、あれってどういう意味な訳? あれもお前が言うニホンって国の言葉なんだろ? なんとなく仕草とかから良い意味って捉えてるんだけど……実際どういう意味なん?」
真顔で聞いてくるマルクトに対し、カトウは心から驚いた表情を向け、そして、突然人目も憚らず大声で笑い始めた。
そんなカトウに対し、マルクトは半分だけ閉じた目を向けた。
「なんだよ。別にそんな笑うようなことじゃねぇだろ」
「悪い悪い。今までそんなこと聞かれたことも無かったからさ、びっくりしただけだよ。そっかそっか、ここ異世界だから、英語なんてものが無いのか」
「えいご?」
思わず出てしまった涙を拭うカトウの口から出た聞き覚えの無い単語にマルクトが反応すると、カトウは愉しそうな笑みをマルクトに向けた。
「そう英語。俺達の世界では一番有名な言語のことだよ。せっかくだし、お前にも教えてやろうか?」
「そりゃ嬉しいよ。最近は知ってる魔法ばっかり授業で教えてくるから退屈してたんだ。是非とも教えてくれ」
「OK……まぁ、教科書無いからわかりにくいかもしれんが、わからないところがあったらその都度聞いてくれ」
◆ ◆ ◆
「enbodying&condensation」
俺のルーンによって具現化した魔力が、俺の声に合わせて小さく分裂していく。
闇に紛れ、今にも視界から消えてしまいそうなカトウに向かって、俺は指を向けた。
「shot!!」
俺が分裂させた魔力の弾丸が光を発し、目にも止まらぬ速さでカトウに向かって襲いかかる。
しかし、流石と言うべきか。
カトウはそれらを全て弾丸で撃ち落とすか、避けきってみせた。
(やっぱりカトウは俺のルーンの特性をうまく利用してくるか……)
俺のルーンは普通の魔法と違い、攻撃力はそれほど大したことはない。俺の全体の魔力量を込めたものでなければ、人一人絶命させる事はできない。
だが、このルーンの真価は別にある。
俺のルーンの名は《操作》。その名の通り、自分の魔力を自由自在に操ることができる能力だ。
そして、俺のルーンで作られた魔力の弾をその身に受けた物体や生物は、俺の思いのままに操られることになる。
だからこそ、カトウは弾丸で撃ち落とすことで、自分に襲いかかってくる魔力弾の数を減らしたのだろう。
高等部の頃と同じように……。




