48話 大天使襲来[4]5
ベルのクラスメイト達はざわめく程度で何かを発言することは無かった。
そんな彼らに対し、カトレアは更に言い放った。
「ですが、それがなにか関係ありますか?」
その言葉によって、更にクラスメイト達はどよめいた。
「確かに私達魔人の存在を良しとしない者が大勢いることは存じております。ですが、私はともかくお嬢様が誰かに危害を加えたことがありますか? どんな時でも、友人を守るべく前に立ち、友と笑うその姿を見て、私はお嬢様が真に望む人と魔人が手を取り合い仲良くする未来に一縷の希望を見出しました。確かに魔界出身の魔人である私を危険視するのは当然と言えるでしょう。ですが、心優しきお嬢様に対し、そんな目で見るのだけは、やめていただきたいのです。……どうか、お願いします」
カトレアは深々と、クラスメイトに対し、頭を下げた。
次の瞬間だった。
そこら一帯に対し、巨大な爆発が起きた。
直後、青年の愉快な笑い声が辺り一帯に響く。
「バッカだな〜。危害を加えたことがない? 一縷の希望? 魔人風情が何言っちゃってんの? 冷めることしてんじゃねぇよ!! お前達は絶望の中で死んでいくのがお似合いのクソ種族なんだよ!! せっかく楽しくなってきたのに説得なんてつまんねぇ真似すんなよな!! まぁ、もう言っても無駄かもしんないけど――」
「黙れ下衆が……」
愉快に笑い声をあげるサリエルの言葉を遮ったのは、聞いた者なら誰もが怒っていると感じる程低い声だった。
その声を聞くと同時に、サリエルの表情から笑みが消える。そして、サリエルは観客席の方を注視した。
すると、爆発によって生じた黒色の煙が、一瞬で吹き飛び、白色のきらびやかなドレスに身を包んだ女性が、そこに立っていた。
銀色の髪が腰辺りまで伸び、その細く白い腕をサリエルに向かって伸ばすカトレアの姿に、クラスメイト達が驚いた表情を向ける。
だが、幾人かの視線が向けるのは、カトレアの手の先に造られたいくつもの氷の結晶の形をした結界であった。
おそらく、彼女が瞬時に護っていなければ、自分達は死んでいたであろう事実が、彼らの表情を青くしていく。
「天上神は基本的に人への手出しを禁じていたと聞いていたのだが……こんな真似をして良いのか、大天使よ?」
「うるさい!! 魔人如きが天上神様を知ったような口をきくな!! 私は天上神様から直々の命を受けているんだ。数の多い人間共が何人か死のうと、別に気にもとめないさ!!」
サリエルの両翼の先に光の粒子が凝縮していき、彼の合図に合わせて、カトレア目掛けて発射された。
だが、それらは全て、カトレアの作り出した氷結結界によって、カトレアまで届くことは無かった。
「魔人如き……だと?」
カトレアが呟くと同時に、そこら一帯の気温が徐々に下がっていくのを、エリス達は肌で感じ取った。
「一騎打ちにおいて、まだ成熟しきっていない相手を狙うような卑劣な大天使が……この私を見下しているのか?」
「だったらなんだって言うんだよ!!」
息巻くサリエルが再び光の粒子を凝縮させようとした。だが、それらは次の瞬間、小規模な爆発を起こした。
「な……なんだ!?」
「相手の魔力に干渉して暴発させただけですよ? まさかこんなことも知らないくせに私達魔人を見下したのですか? 片腹痛いですね」
明らかについ先程までとは異なる異質なオーラに大天使サリエルは気圧されていた。
そして、サリエルの目に突如としてそれは映った。
半透明な氷で出来たようなかくついたものではあったが、先程まで確かに無かったはずの氷の翼が、カトレアの背中についていた。
「私の名はカトレア。蒼氷華の称号を魔王様から賜わり、氷獄門の番人という名誉ある役職を授かった魔人だ。だが、それは過去の話……今の私はベルフェゴール様に心より忠誠を誓った一人の魔人に過ぎない。……でも、だからこそ私は、ベルフェゴール様の為なら命だってかけられる。……いくぞ、大天使サリエル。お前はこの私が全身全霊をもって、倒す!!!」




