48話 大天使襲来[4]3
エリス自身もベルは魔族では無いと思っている。いや、明確には思いたいというのが本音だった。
何故なら彼女は、マルクトに妹がいないということを本当は知っていたからだ。
エリスの父は近衛騎士団団長であり、ユリウスというこの国で王様として知られる男が全幅の信頼を寄せる護衛を務めている男だ。
そして、必ず夕餉の食卓には家に帰ってくるような家族思いの良き父でもある。
だから、エリスやエリナはよく学校であったことを父に報告していた。
それには当然、ベルのことも入っていた。
『おかしいな、マルクト様に妹はもういなかったはずだが……その子達は本当にマルクト様の妹だと名乗ったのかね?』
その言葉を告げられてから、エリスとエリナはベルとメグミの二人がマルクトの妹じゃない可能性を視野に入れてきた。
だが、そんなことはどうでも良かった。
いくら担任の教師とはいえ、マルクトと自分は他人同士。
並々ならぬ事情があって、兄妹ということにしているとかそんな感じなんだろう。自分達が無闇矢鱈に詮索していい問題じゃない。
そう結論付けて、これまで二人と接してきた。
それなのに、今この状況になって、ベルが本当の妹じゃないという真実が、エリスの信じたいと思う心を揺さぶっていく。
実際、疑わしい点は他にもあった。
天使や魔人といった存在が実在するというのは初等部や中等部で授業を受けた者なら誰でも知っているような一般常識だ。
その際に覚えさせられる天使と魔人の明確な違い。それは使える魔法の属性だ。
魔人は光属性を使うことが出来ないし、対照的に天使は闇属性を使うことが出来ない。
だが、使えない魔法がある代わりに、魔人は闇属性を、天使は光属性を、必ず持っていると言われている。
治癒に特化した光属性を持つ天使と、破壊に特化した闇属性を持つ魔人。
それが人間によって確立した印象だった。
そして、ベルは校内戦でも闇属性の魔法を使用している。信じきれない理由はそこにあった。
だが、エリス自身も闇属性の魔法は使える。
だから、一言違うとベルの口から言って貰えれば、絶対に信じるつもりでいた。
年の離れた友人を信じるつもりでいた。
だが、ベルの方を見てみれば、彼女は身体を目一杯縮こまらせ、怯えるように震えていた。
その青くなった表情が、エリスの声をつまらせた。




