47話 大天使襲来[3]4
その噂の出処は彼女のことが好きすぎるあまり家までつけた男子生徒で、彼が言うにはマルクトの屋敷に人目を気にするように入ったから、想像力の強い彼の勝手な妄想だったらしい。
実際、クレフィから噂の真偽を確かめたところ、本人は単にマルクトの家で学費を稼ぐ為に働いていると言ってきた為、特に咎めることは無かった。
確かに、魔導学園エスカトーレの学費は高い。母親を亡くしている彼女が自らの学費を稼ぐ為に働くというのはなんら不思議なことでは無い。
だが、そこは重要じゃない。
そう。この場で重要なことは、目の前にいるクレフィという名の女子生徒がリーパー家の内情について詳しいという事実だ。
「マイヤーズ先生、少しの間、この場で生徒からの報告を受けておいてください」
クレフィの迫力に気圧されおどおどしているマイヤーズにピスカトルは冷静な面持ちでそう告げた。そして、その厳格な眼差しをクレフィへと向ける。
「私は少し彼女と話がありますので」
◆ ◆ ◆
周りの生徒に話を聞かれない辺りまで移動すると、ピスカトルはクレフィに向き直る。
「さて、音を遮る結界は張った。ここでなら他に話が漏れることは無い。……それで? 本当のところはどうなんだ?」
「何がでしょう?」
真顔でとぼけてみせたクレフィに、ピスカトルは小さく笑う。
「あまり時間もない。交換条件といこう。もし、知っていることを正直に話してくれれば今回の件はマルクト先生の独断ということにし、君に危害が及ぶことにはならないよう私が取り計らおう。君は将来有望な魔法使いとなれる。経歴に傷がつくようなことは……」
「そんなことはどうでもいいです」
「……どういうことかな?」
クレフィにとってピスカトルからの提案はかなりの好条件だったはずだ。
魔人と思しき人物を匿っていた家で働き、そのうえ、件の魔人とも仲が良さそうな彼女にとって、この条件を断るメリットは無いように思えた。
だが、クレフィは迷いの無い表情で堂々と言い放った。
「旦那様は人道から離れた悪行をするお方では決してありません。あの大天使と自称する人物がおこなった話が真実であろうと無かろうと、旦那様には旦那様なりの考えがあるはずです。そして、私自身、恥ずべき行いをしたことなどありません!! 聞きたいことがあるのであれば、私の知る限りの全てをお教えしましょう。ただ……」
「ただ?」
クレフィは大きく深呼吸をし、真剣な面持ちのまま、彼に告げた。
「中で何が起こっているかの情報が欲しいのです。五年の主任であらせられるピスカトル先生であれば、サテライトで他の先生と連絡を取り合えるはずです!!」




