45話 大天使襲来[1]1
声がした方に顔を向ければ、そこには一人の青年が立っていた。眩く光る白光を背にし、床の無い天空に立つその姿は、まるで物語に出てくる天使のようだった。
純白の衣に身を包み、緑色の長髪が特徴的なその青年の背には、二対の純白の翼がついていた。
確信は無かった。
だが、耳にした特徴と合致するその姿に心の底から殺意が込み上がってきた。
『その者は我々の敵となる存在、いくら管理者である貴方と言えど、契約を違えることはやめていただきたい』
「大天使風情が偉そうに指図するでない。契約上、貴公らの邪魔はしないと約束はしたが、我輩の機嫌を損ねた罪として全てが終わった後に貴公を殺すことも出来るのだぞ?」
肌がひりつく程の殺気を放つジジイの意図が理解できなかった。
まるで知り合いかのように話しながら、本気で殺しかねないような威圧感を放っている。
いったい何がどうなってるんだ?
「マルクトよ」
こちらに視線を向けることなく声をかけてきたジジイの方に顔を向けた。
「非常に残念ではあるが、我輩はここで帰る。こ奴らとの戦いはお前を大きく成長させることだろう。次に戦える時を楽しみにしておるぞ――」
「待って!!」
気付いた時には声を上げていた。
痛みを訴えてくる身体に鞭を打ち、どうにか身体を起こした。
このまま行かせちゃ駄目だ。
この人のことは心底憎いが、この人は絶対なにかを知っている。
俺が知りようも無い真実を、この人は絶対に知っている。
さっきユリウスがこっちに来ると言っていた。
あいつが来るまでの時間はなんとしてでも稼いでみせる。
「我輩を視てもらおうとしても無駄だぞ?」
一瞬で考えを読み取られ、俺は口にしようとしていた言葉を忘れる程の衝撃を受けた。
「我輩について知りたいのであれば強くなれ。ではな」
挑発的な笑みをこちらに向けながら、拳聖ボナパルトはその言葉を残して、俺達の前から姿を消した。




