44話 五分間4
未だに晴れない土煙が俺の視界いっぱいに広がっている。
だから、ジジイがどうなったかなんてわからない。
わからないが、あの一撃を耐えられる奴なんているはずがない。
倒した。死んでてもおかしくないような破壊力の魔法を撃ったんだ。いくらあの人が異次元な強さを持っていたとしても、耐えられるはずが……。
耐えられるはずがないと思おうとした時、俺の視界に一瞬、嫌な影が見えた。
幻影だ。そう思えたらどれほど気が楽だったろうか。
だが、すぐにその正体はわかった。
あの人は立っていた。
腕を組み、仁王立ちの体勢で、まるで何事も無かったかのように、そこに存在していた。
「時間切れだ」
その低い威圧的な声が、俺に絶望の未来を見せる。
回避行動に移ろうとしていた。
動けなかった時間は一秒にも満たなかったと思う。だが、その一秒が果てしなく長く感じて、気付いたら目の前にジジイが立っていた。
動き出しから殴るまでの行為が、まるで時間が遅くなったかのように意識に強く突き刺さる。
避けなければと思った。だが、俺の足は俺の意思を尊重することなくその場に釘付けになってしまう。
「せめてもの情けだ。本気で殴ってやろう」
殴られる直前、その言葉が俺の耳元に囁かれ、そして、俺の身体は容赦なく、通路入口がある壁に激突した。
口元から流れる血の量は魔力使用過多の時とは比べ物にならなかった。
だが、俺にとって一番の衝撃は、なんの変哲もないただの打撃で、俺の防御膜を突き破ったところだった。
今まで受けたどの攻撃よりも強力な一撃。
これはつまり、防御膜で威力を緩和しなければこの程度では済まなかったということに他ならない。
自分とジジイの力量差が骨身に染みてわかった気がした。
「つまらぬ」
いつの間にか、ジジイはうずくまる俺のすぐ前に立っていた。
場外による俺の敗北は明らかだった。そうでなくても戦意なんて残ってない。
そんな俺を見下ろすように投げかけられたその言葉が、俺の歯を軋らせる。
「多少魔法やルーンは使えるようになったようだが、まだ芽吹いてすらおらぬのか? ……いっそのこと、この場で芽吹かせるか……」
ジジイが動けないでいる俺の顔に手を近付けた時だった。
『そこまでにしてもらおうか』
突如として遥か上空から、男のものと思われる声がかけられた。




