44話 五分間2
数々の伝説を残す正真正銘の怪物。
比肩する者など存在せず、自由気ままに世界を旅し、強者を求め、手に入れた国の統治を息子に任せるような自由人。
だが、最強無敵の化け物。
拳聖ボナパルト。
そんな化け物を化け物たらしめるのは当然腕っぷしの強さだけでは無い。
この化け物は、世界でもたった一人しか存在しないルーンの二つ持ち。
師匠から聞かされたそのルーンの正体は《掌握》。
手で触れた者の内に秘めたる力を半強制的に目覚めさせるという一見自分に利の無い力に思えるが、そうではない。
師匠が笑って教えてくれた。
『拳聖ボナパルトのルーン《掌握》の真価はそこじゃない。あいつはどんなに強力な力を持とうと、その力を掌握することができる。だからあいつは、最強と称えられるんだ』
若かりし頃の俺には意味がさっぱりだったが、対峙してようやく理解出来た。
ルーンを使って強くなる俺と、ルーンで強くなったジジイ。
全身全霊を一発に込めるだけじゃ、このジジイに勝つことは出来ない。
だが、そんなことは関係無い。
能力不明なルーンがもう一つあろうが関係ない。
調べてもわからない以上、ここで引き出し、ここで攻略すればいい。
だったら――
「まさかこれが全力という訳ではあるまいな?」
「当たり前だろ!! あんたを相手にこんだけで倒せるなんて最初から思っちゃいねぇよ!!」
俺は右手を瞬時に引き、代わりに左手で殴った。
顔面を捉えたものの、相変わらず効いているようには到底思えなかった。
だから、俺は威力を落とすことなく怒涛の連撃を放った。
腕を組み、無防備にも仁王立ちをしている男を相手に本気を出すのは気が引ける。
だが、そんな悠長なことを言ってる場合じゃない。
むしろ、この仁王立ちは余裕の現れ。
俺がこいつの域に達していないというなによりの証拠。
どうせなら本気で来てほしいが、これはとどのつまり、俺は本気を出すに値しないということに他ならない。
「チッ」
効果がまったく見られない打撃をやめ、俺は相手と距離を取るべく後ろへ跳んだ。
「あと二分だぞ?」
あれだけ打ち込んだというのに、まるで痛みなどまったく感じていないかのように笑うジジイを見て、苛立ちが増してくる。
だが、同時に疑問も生じた。
何故、俺の打撃がここまで通用しない?
別に自分の力に驕っている訳では無い。
単純な打撃で言えば、俺の力はあまり強く無い。
それはそうだろ。
俺は戦闘を得意とする冒険者のような存在では無い。
研究を生業とする研究者で、今は魔法を教える教師に過ぎない。
だが、ルーン《操作》で全身の魔力を操作し、拳に魔力を乗せれば、それはあらゆるものを壊す一撃となる。
そんな攻撃をあそこまで防ぎきるということは、相手の防御になにかしらの細工があるのかもしれない。
「……残り二分? 上等! 打撃技が効かないってんなら、違う方法を試せばいいだけだ。二分であんたに対する有効打を見つけてぶっ潰す!!」




