43話 マルクトの過去6
俺がマヤの死に涙を流せるようになれたのは、彼女が毎日のように、話すことも、動くことも、遊んであげることも出来ない俺の部屋に来て、楽しそうな話を聞かせてくれたからだ。
そんなマヤが、荒んだ俺の心を荒らすだけ荒らし、勝手にいなくなってしまった。
それは、心にぽっかりと大きな穴が出来たかのような感覚だった。
それからの二年間は本当につまらなかった。
唯一と言っていいほどの楽しみが無くなり、日がな一日ジェフによる勉強を退屈に受けるだけ。
空虚な心が満たされることなく、師匠に城から連れ出されるその日まで、俺は自分の人生に絶望した。
師匠のお陰で得た自由を得てしても、その空虚な心が簡単に満たされることは無かった。
そんな時、師匠が俺に言ったんだ。
「マルクト、お前が妹さんを看取れなかったのは、お前が弱かったせいだ。なんもかんも自分の力を制御できんかったお前が全部悪い。お前がちょっとは強けりゃ、あの爺さんにも挑むなんてバカな真似もせんかっただろうし、妹さんを治療するという手立ても思い浮かべとっただろう。要するに、何もかんも弱いお前が悪い。悔しかったらあのジジイをぶっ飛ばせるくらいの力を得るんだね」
正直あの言葉には心底ムカついたから、俺は必死に修行したんだったか……。
山の中を全力の師匠に追い回された時も、出口の無い強固な箱に閉じ込められた時も、自分が弱かったから妹を助けることが出来なかったって言葉を反復することで乗り越えられた。
あのジジイに対する怒りが薄れた訳ではない。
ただ、それよりも立ち上がることを諦めて肝心なところでマヤを救えなかった俺自身が許せない。
俺を身体的に強くしたきっかけはあのクソジジイに対する仕返しとかそんなのが理由だったのかもしれない。
だが、人を助ける魔法を多く開発したのは、マヤのような救われない人間を一人でも多く救う為だ。
今の俺が俺でいられるのは、一番辛いときにマヤが俺の傍に居てくれたからだ。
マヤとジェフが俺を見捨て無かったから、今の俺がいる。
師匠にあそこから解放されたから、今の俺がいる。
だから、俺はあのクソジジイにこれまで培った全てを出し切るつもりで挑む。
「マルクト様、そろそろお時間ですが、準備はよろしいでしょうか?」
耳にサテライトを当てた委員会の者が、ベンチに座って物思いにふける俺に声をかけてきた為、俺は座っていたベンチからゆっくりと立ち上がる。
「さぁ、あのクソジジイに昔とは違うと証明しようか」




