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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第7章 最強決定戦編
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43話 マルクトの過去5


 その報告が俺に与えた衝撃は大きかった。

 彼の言葉があまりにも突拍子過ぎて、俺はその言葉を信じたく無かった。

 だが、俺の内心を慮ってのことなのか、ジェフは土下座し頭を床にこすりつけた状態のまま、言葉を続けた。


「二ヶ月程前に行かれた旅先の村で流行り病が発生し、不運なことにマヤ殿下もかかってしまわれたのです。未だに治療法も解明されておらず、人への伝染も恐れられた為、王都に入れることも叶わず、そのまま……しかし、最後の最後まで、マヤ殿下はお兄ちゃんに会いたいと、お兄ちゃんに会って旅で楽しかったことをいっぱい伝えるんだと、笑っておられたそうです……殿下?」 


 不思議だった。

 今までどんな話をされようと声が出ることなんて無かったし、どんなに頑張っても身体は動かなかった。

 もう動くことはないと思い、全てを諦めていた。

 だが、マヤの訃報を心が理解するのと同時に、不思議と涙が目から溢れていた。


 両親に見捨てられた時ですら出なかった涙が、俺の目尻を伝って枕を濡らす。


 俺は最悪の兄だ。

 世界に二人しかいないとされる特別な才能を持っておきながら、それを誇示するだけで、磨こうとはしなかった。

 こんな俺を兄なんかと慕う妹を突っぱねるだけで、受け入れようとはしなかった。

 両親に見捨てられ、ジェフ以外の使用人からも腫れ物のように扱われるなか、マヤだけは前と変わらず接してくれていたのに……俺は、お兄ちゃんらしいことを一度もしてやれなかった。


 身体が動ければと思ったが、それであっても果たして俺がマヤを救うことは出来ただろうか?

 他人を蔑み、見下していたあの頃の俺に、人を助けることなんて出来ただろうか?

 おそらく……いや、確実にそれはあり得ない未来だろう。

 あの頃の俺にとって、妹は妾との間に出来た腹違いの妹で、鬱陶しいと心の底から思っていた。

 そんな腐った性格がそうそう簡単に変わる訳がない。

 例え、死の淵のマヤを見たとしても、せいぜい辛そうだなと思うくらいだろう。

 まず間違いなくマヤを助けようとは思わないだろう。


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