43話 マルクトの過去2
目が覚めた時、俺は自分の部屋に居た。
白い天蓋が視界に入った。頭痛はあったし、身体中が痛かった。でも、身体に傷は一つも無かった。
王族お付きの光属性に特化した魔法使いが一夜で治してくれたというのは、後で知った事実。
俺にとって傷なんてものは二の次だった。
なぜなら、すぐ傍に居てくれたであろう母さんが俺に勢いよく抱きついてきたからだ。
大人でありながら涙を流し、ただただ俺の心配をしてくれる母さんのせいで、俺も泣いていた。
嬉しいというよりもあの人に対する恐怖と母親が目の前にいるという安堵感で泣いてたんだと思う。
でも、その日はもう夜で、俺はすぐに泣き疲れて眠ってしまった。
いや、今思えば強制的な睡眠だったのかもしれない。
なぜなら俺は、その日から身動きを取ることが叶わなくなってしまったのだから。
俺の《操作》は、自分の魔力がこもったものを意図的に操ることができ、そのうえ半自動的に防御膜を展開することができる俺専用の特殊な力だ。
有用性があり、様々な使用方法がある便利なルーンだが、それは今の俺だから可能な話だ。
この防御膜は俺の身体を外敵から守る役割を持つ。
弾力があるのは、俺が自分の身体を動かす為に硬度を捨て去った結果であり、半自動化にしているのはこの膜に自動反撃機能を付与しない為である。
つまり、当時五歳程度の知能しか持たない子どもだった俺にとって、この能力を使いこなすことは不可能だったのだ。
身体は石のように硬くなり、口もまともに動かせない状態で、唯一動かせたのは自分の眼球のみ。
瞼も当然のように動かない為、俺は常に目を開いた状態だった。
意識はあるはずなのに、指先一つ動かすことが叶わず、呼吸や食事といった生活に必要な機能ですら、魔力が循環するせいで、必要としなかった。
いや、最初はそんなことわからないし、両親や使用人達は大慌てだった。
どんなに優秀な魔法使いが調べても、俺の身体は異常なしという結果にしかならない。
それもそのはずだった。
俺はただ単に、内に秘めた膨大な魔力で《操作》というルーンを発動しているに過ぎないのだから。




