43話 マルクトの過去1
俺は昔、本当に酷いと思えるような少年時代を過ごしていたんだと思う。
思い出すのも嫌になる……そのぐらい、俺は最低の子どもだった。
『世界にたった一人しかいない黒ランク』
その現実が変わったのは今から二十六年程前のことだ。
魔王が魔族を連れて魔界よりやってきたという日から三年弱が経ちながらも、未だに魔王は人間界に存在しているこの最悪な状況下で、長年産まれることのなかった黒ランクの子どもが産まれた。
幸か不幸か、俺の父親は大国の王であった為、その事実はまたたく間に国中に広がった。
魔王という存在に怯える国民は俺の誕生を祝福し、人々は俺という人間に期待した。
その結果、五歳になる直前まで、俺という人間は他人を見下し闊歩するような酷い人格者になってしまった。
あの頃の自分は本当に酷かった。
必死に努力する兄のことを見下し、庶民との子だということで血の繋がった妹を軽蔑した。
そして、自分より力の無い人間は全て、俺という存在の為の捨て駒に過ぎないとも考えていた。
だが、そんな俺を両親は愛し、周りは敬服してくる。
だから思う。
これでいいんだ、と。
何度も何度も鬱陶しいと思えるほどついてくる妹をどれだけ罵っただろうか?
努力しても俺に届かないと嘆く兄をどれほど嘲笑ったことだろうか?
俺なんかの為にお茶を注いでくれた使用人をどれほど叱っただろうか?
大きくなって、色々と知った今ならわかる。
あの頃の自分は正真正銘のクズ野郎だったってことを。
そんな俺の五歳の誕生日、俺は自らを祖父だと名乗る男と初めて出会った。
あの人がなにを言っていたかなんて覚えていない。
ただ、俺より強いやつなんて存在しないと信じ込んでいた異常者マルクト少年は、相手が何者かも知らないのに飛びかかり、大人気ないと思える程の洗礼を受けた。
意識が混濁するほど殴られ、最後には折れていたであろう左腕を片手で持ち上げながら、こう告げてきた。
『期待していたというのに残念でならん。眠っておるのか? ならば目覚める手伝いをしてやろう』
直後、弾け散りそうになるほどの痛みが全身を駆け巡り、俺は廊下の床に落とされた。
そして、あの人は激痛でもだえ苦しむ俺を見下し、告げた。
『二十年……そのぐらいあれば目覚めとるだろう。マルクトよ。二十年後にまたお前の前に現れる。その時は今日のような手加減はせんぞ』
その言葉を残し、あの人は去っていった。




