42話 二日目6
突然の放送に会場が騒然となった。
それはそうだろう。
五年連続マゼンタ最強決定戦の覇者として知られ、今回も優勝候補筆頭に挙げられていた花形が突然の棄権だ。
先程の知らせを伝える女性の声も、明らかに動揺しており、あまりにも突然だったことが伺える。
流石の俺でも、この知らせには冷静さを保てなくなってしまった。
「カトウが棄権? ミチル!! カトウはこのスタジアムには来てたんだよな!!」
ミチルの困惑した表情がこちらに向けられ、彼女は無言で頷く。
彼女の反応から見るに、彼女も一切知らされていないようだ。つまりは、カトウがミチルにも黙っていなくなったか、カトウがミチルとアリサと別れた後に攫われたということだ。
だが、攫われた可能性は限りなく低いだろう。
あいつは五年間マゼンタで最強の実力者として君臨してきた。その実力も俺やユリウスが認めるもので、そのうえ最近になって《薬才》というルーンにも目覚めた。
あいつがそう簡単にやられるとは思えない。
人質にしたって、ミチルやアリサはここにいる以上、人質になりそうな人間はいない。
となると、個人的な脱走という線になるんだが……あいつがミチルを不安にさせるような真似をするとは思えないんだが……。
「マルクトさん! テツヤさんが出ません!!」
ミチルの切羽詰まった声で、俺は彼女の方を向いた。
ミチルはサテライトを握りしめ、不安そうな表情で目から涙を流していた。
「とりあえずあいつを探し出すのが先決だな」
サテライトが使えないということは、カトウがサテライトを持っていないか、もしくは自発的に魔力供給を断っているということだろう。
だが、サテライトがあろうと無かろうと、俺にはあまり関係無い。
なぜならサテライトは探索魔法を使用できない者の試すに造られた魔道具なのだから。
俺はすぐに探索魔法を発動した。
目的の人物の魔力の波動を知らない限り、無意味な魔法ではあるが、使えれば半径五十キロ圏内ならどこにいたって見つけられるという優秀な魔法だ。
(自らの意思だろうがなんだろうが知ったこっちゃ無いが、あのバカ早く見つけ出してとっちめてやる!!!)
しかし、予想に反し、カトウの反応はどこにも見当たらなかった。
「……どこにもいない……だと……」
驚きのあまり、動揺が思わず声に出てしまった。
放送のタイミングを考えるに、失踪のタイミングはつい最近の筈だ。それにもかかわらず、俺の探索魔法に引っかからないのはおかしいと言えるだろう。
なぜならカトウは闇属性を使えない魔法使いだからだ。
例え風属性でスピードを上げて半径五十キロを超えることが出来たとしても、それをする意味がわからないし、かなり時間がかかる以上、見つからないということはないはずだ。
(……となれば攫われた可能性が高いな。カトウを攫い、転移でもすれば範囲外に出たことにも納得がいく……だが、その場合、カトウがおとなしくするだろうか?)
その時、俺の中に一人の女性の顔が浮かんだ。




