42話 二日目5
この席は一般開放の席ではなく学園用の観覧席なのだが、警備は結構緩く、カトレアのような生徒ではない者も座っている。
ただ、周囲が学生ばかりなので部外者はかなり目立つという欠点もあるが、そこらへんは気にしなければ結構見やすい席だ。
まぁ、結構辛そうな人も若干一名いるみたいだが……。
「おはよう、ミチル。カトウは一緒じゃないのか?」
隣に同級生と仲良さそうに話すアリサを置いて、気まずそうにしているミチルに気付き、俺は声をかけた。
ミチルも俺を見た瞬間、安堵したような表情を見せてきた。
「おはようございます、マルクトさん。主人なら初戦の試合に備えて控室に行っていますよ」
「主人だってー!!」
ミチルが俺に対して返答すると、カトウのクラスの女子生徒の一人が甲高い声を上げ、それに乗じて黄色い悲鳴が上がる。
すると、ミチルの表情がみるみる内に熟れたりんごのように真っ赤になっていく。
昨日、カトウの試合を観にきたミチルを、アリサがカトウの嫁さんだと紹介したのが事の発端で、何故か昨日は終始カトウのクラスから黄色い悲鳴が上がっていた。
普段は家事を生業としており、年上の人と接する機会は多いものの、自分より年下の少女達と接することに慣れていないミチルは、対人能力が人並み以下と言えるだろう。
別にそれが悪いという訳ではない。
温厚的で人をたてる彼女の性格や人柄は、接しやすいとも言えるし、人間誰しも得手不得手があるというものだ。
とはいえ、質問責めにされ、帰る時には疲弊しきっていたミチルを見た時は結構心配になったんだが、他の席に行かずにここにいるということは、気分を害した訳ではないのだろうし、取り敢えず心配はいらないだろう。
(……まぁ、カトウも試合が終われば、助け舟を出すだろうしな)
そう思ったタイミングだった。
『運営委員よりお知らせいたします。四回戦の初戦で戦う予定になっていたテツヤ・カトウ選手が一身上の都合により棄権すると先程運営委員に報告を受けました。よって、ミルナーヴァ選手の不戦勝とし、すぐに第二試合に移らせていただきます』




