42話 二日目2
「どうかしましたか?」
過去の失態を心の内で反省していたカトレアは、クリストファーにそう訊かれたことで、我に返った。
「すみません。ちょっと考え事をしてまして……なにかすることはありませんか?」
「いえね、昨日の試合に続き、今日もカトレア殿は試合なのですし、もう少し休まれてはいかがかと思った次第でしてね」
「お心遣い感謝します。しかし、心配は無用です。昨日の疲労など無いに等しいので。私もここの使用人として自分の使命を果たします」
「……そうですか。その心意気はかいましょう。とはいえ、こちらも旦那様から今日の仕事は休ませるようにと言いつけられておりますので、誠に申し訳無いのですが、今日のところはご自愛ください」
クリストファーはカトレアに対し、頭を下げた。
自分を休ませるように言ったマルクトの意図は不明だが、彼の言葉はクリストファーという男にとって、何よりも優先度の高いものだ。
例えここで食い下がろうと、クリストファーが聞き入れるとは到底思えなかった。
「わかりました。ただ、お嬢様を起こしにいくくらいは構いませんか?」
例え休みを言い渡されようと、あの天使の寝顔だけは自分以外の者に拝顔させるつもりはない。
あれは自分だけの特権。魔王ベルフェゴールに心からの忠誠を誓う自分だけに許された癒し。
譲るつもりなど毛頭無い。
凄みのある表情に気圧されたクリストファーは、カトレアに対し、苦笑に近い笑みを向けてきた。
「ご……ご自由にどうぞ」
クリストファーの許可を得られ、カトレアは踵を返し、主君の部屋へと向かった。




