41話 明日に備えて9
転移先に指定した場所は、以前ユリウスに招待された際、食事を行った場所だ。
流石の俺でも年頃の少女が使っている寝室に飛ぶようなバカな真似はしない。
他の人物には見られたく無いものもあるだろうし、やれば間違いなくユリウスが魔人顔負けの悪鬼となることだろう。
とはいえ、ティガウロやエリスタンのような一部の者以外は、アリスのことをいつも部屋に引き籠もっている箱入り娘としか知らない為、多くの者がいる場には赴けない。
そこで選んだのが、その部屋なのである。
ユリウスが個人的に使用しているそこならば、アリスのことを知っている一部の者しか立ち入らず、彼女の部屋からも近い。
ユリウスもそこを転移先に使うことを許可してくれた為、俺も遠慮なく使わせてもらっているという訳だ。
だが、今回は先客がいた。
転移魔法で移動した直後、俺とアリスの視界にその女性は映った。
コックコートなる衣装に身を包んだ黒髪の女性が、ユリウスが以前使っていた豪奢な椅子で、頬杖をついて眠っていた。
「カナデお姉様? 何故ここに?」
アリスの驚きのこもった声がすぐ隣から発され、その直後に眠っていたカナデの顔が手のひらから落ちた。
ガンという痛そうな音が聞こえ、直後に「イタタ」という声がカナデの口から漏れ、彼女は頬杖の痕が残った顔をこちらに向けてきた。
寝ぼけているのか、まだ目は半開きで、カナデはキョロキョロと辺りを見渡しながら、「ここどこ?」と今にも消え入りそうな声を発す。
「ここはお兄様が個人的な客を招く際に用いられるお部屋ですよ。カナデお姉様」
背伸びをしているカナデに対し、アリスが笑顔で返す。
(相変わらず王妃にはとても見えないな……まぁ、それも仕方ないか……)
カナデは元々この世界の人間ではない。
カトウと同時にこの世界にやってきたいわゆる異世界の住人だ。
その身に宿したルーンで、日本のものをこの国に広めているが、実際便利なものが多い為、誰も文句を言わない。
そして、そのルーンの内容を知っている俺からしてみれば、彼女のルーンをティガウロ同様国家機密として扱っているユリウスの判断は間違っていなかったんだと分かる。
今は表向き《料理》というルーンで隠しているが、その正体を知れば、国家同士の戦争に発展しかねない代物と言えるだろう。
おまけに今日の対戦を経て思ったんだが、もしもティガウロがカナデと組んだなら、世界最強のタッグと呼んでも差し支えないと断言出来る。
それほどまでに、彼女はとんでもない人物なのである。




