41話 明日に備えて8
「それじゃあ俺はアリスを送ってくる。帰ったら話があるから後で執務室に来てくれ」
「かしこまりました」
家に帰りつくと、クリスが出迎えてくれた為、俺は彼にベル達のことを任せ、アリスを帰すべく転移魔法を使おうとした。
すると、突然白衣の裾を後ろから引っ張られた。
そちらを向けば、ベルが何故か俺の白衣を掴んでいた。
「……ベルも行く……」
いつもとは明らかに違う様子に困惑しているのは俺だけでは無かった。
「ベルちゃんどうしたの? 帰ったら私とお部屋で遊ぶんじゃなかったの?」
しゃがみこんだメグミがベルの肩に手を置くが、ベルは不思議と俺から離れようとはしなかった。
「すぐ戻って来るんだぞ?」
「……ほんと?」
ここまで食い下がるなんて珍しいな……いやまぁ、強情な感じで駄々をこねることはままあるが、なんていうか……らしくないな。
「ああ、ちゃんとすぐ戻ってくるから良い子にして待っていてくれ、な?」
しゃがんでベルの頭を撫でるが、下手くそなせいか、彼女はしかめっ面をやめてはくれなかった。
「……ベル、子どもじゃないもん……」
その言葉に、思わず口元がにやけてしまう。
「なら、おとなしく待っててくれるか?」
「……うん」
納得した訳ではないだろうが、俺の気分を害すまいとしたのか、ベルは小さく頷き、俺の裾から手を離してくれた。
「ごきげんよう、ベルちゃん、メグミさん。また明日スタジアムで」
「は……はい!! また明日!!」
「バイバイ、アリスお姉ちゃん!!」
アリスの表情がベルにお姉ちゃんと呼ばれた瞬間、とても嬉しそうなものになった。
「……先生のお嫁さんになれれば、ベルちゃんが正式な妹に……」
真剣な表情でボソボソと呟くアリスに苦笑いしながら、俺は彼女にそっと手を差し出す。
その手にアリスが手を置き、俺は転移魔法を発動させた。




