40話 マルクトVSティガウロ5
六つの小さな砲門がつけられた全長一メートルはありそうな黒い鉄の塊がマルクトに向けられ、マルクトは咄嗟に後方へと飛んだ。
「そんなに怯えないでくださいよ。なんたってこれは、私からのささやかなプレゼントなのですから」
「はぁ!!?」
マルクトの驚愕の声など聞こえてすらいないかのように、ティガウロは懐に入れていた茶色のポーチからガトリングガンに取り付けられた挿入口に銀色に光る小さな球体を流し込んだ。
「実はこれ、実験作なんですよ。カトウさんが書いてくれた絵でパッと見はなんとか出来たんですが、肝心の構造に関してはカトウさんですら知らないそうで……だからちょっと試しに使ってみようかと」
「……それは今やらなきゃならんことか?」
呆れたように告げるマルクトに対し、ティガウロは心から不思議そうに首を傾げた。
「だってこの機会を逃したら貴方に遠慮なくぶっ放せないじゃないですか?」
「は? それどういう――」
「行きますよ!!」
直後、棒立ちのマルクトに対し、ティガウロの手に握られたガトリング砲が容赦なく火を噴いた。
目に映るはティガウロの魔力によって後押しされた無数に広がる音速の鉄球。
その勢いを前に言葉を発する暇などありはしなかった。
地面に当たったいくつかの鉄球がフィールドの土を巻き上げ、フィールドの半分を見えなくしてしまう。
フィールドを食い入るように見ていたほぼ全員が、マルクト・リーパーの敗北を予見しただろう。
今まで見たことの無いような兵器で無惨に殺される哀れな教師の姿を予見した者も少なくは無いだろう。
だが、フィールドの土煙が晴れると同時に、全員の視界に彼は映った。
白衣を風圧ではためかせ、差し出した右手の先に発生させた黒い渦で今も放たれる鉄球を吸い尽くすマルクトの姿が。
「……ベル少女が校内戦の時に使用していた闇属性の防御魔法ですね……」
一発一発を防ぐのではなく、小さな鉄球を一気に吸収していくその魔法を見て撃ち続けても無駄だと悟ったティガウロは、次の手を模索する時間を作り出すべく、対戦相手であるマルクトに話を振った。
マルクトもまた、ティガウロがガトリング砲をぞんざいに放り投げたのを見て魔法を解除すると、敢えて彼の思惑に乗った。
「俺が作ってベルに教えたんだ。俺が使用できるのはなんらおかしくないだろ?」
「ごもっとも……ですが、そんな危険な魔法を子どもに教えるなんて、あまり褒められた行為ではありませんね」
「別に誰かから褒められたくてあの子に魔法を教えている訳じゃないんだ。時間が無い彼女に己の身を守る術を教えるのはなにもおかしくないだろう?」
「まだ六歳児ですよね? 時間が無いの意味がいまいち理解出来ないんですが……」
その言葉はティガウロにとってほんの忠告心のつもりで告げた言葉だったが、ティガウロはマルクトを見て一瞬で理解した。
今のは失言だったのだと。
「理解なんてしなくていいさ。俺にはやらなきゃいけないことがあって、ベルには最低限自分の身を守る術を身につけてもらわなきゃならない。他人なんて関係無い。これは俺達二人の問題なんだからな」
マルクトの手に顕現した白色に光る大鎌を見て、ティガウロは直ちに回避行動に移らなくてはならないと思った。
だが、ティガウロの身体は彼の意思に従うことは無かった。
全身がまるで凍らせられたかのように硬直してしまう程の覇気を前に、ティガウロは呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
そして、マルクトの姿が一瞬にして消える。
刹那の一撃だった。
呆然と立ち尽くすティガウロの身体を、マルクトの握る大鎌が一閃した。
そして、ティガウロの意識は闇へと沈んだ。




