39話 屈辱8
息を切らせながら走るエリスは、目当ての相手を探すべくスタジアムの外に来ていた。
しかし、そこには試合を観に来た人が数多くおり、目当ての相手を見つけるのは困難に思われた。そんな時、エリスの視界に、人の身長よりも長い布で巻かれた何かが映る。
もしかしてと思い、エリスはその目印に向かって人の波を抜けていく。
そして、ようやく目的の人物に追いつけると、エリスはその人に声をかけた。
「待ってください、ユミールさん!!」
その言葉に女性の足は止まり、背後を振り向く。それは間違いなくエリスが先程戦った女性だった。
「おや? もしかして先程の? 何故ここにおられるのですか?」
「なんではこっちのセリフです!! どうして私に勝ちを譲ったんですか!!」
ユミールはその問いに言葉を詰まらせ、一呼吸おいてエリスに答えた。
「ここは人が多いですね。どこか静かに話せる場所はありませんか?」
「……わかりました。こちらにどうぞ」
ユミールの言葉にエリスは今すぐにでも聞きたい欲求を抑え、人気の無さそうな場所までユミールの手を引いて案内し始めた。
エリスは周りが木々ばかりの演習場にユミールを案内し、近くにあるベンチに座らせ、自分も隣に座った。
「手を引いてくれるなんて優しい方なんですね」
「……別に私の為ですし、ユミールさんに逃げられたりしたら大変じゃないですか」
少し上擦ったような声でそんなことを言ってくるエリスに、ユミールは笑みをこぼす。
「そうですか。貴女に何故勝ちを譲ったのか……確か貴女はそう言ってきましたね」
「そうです!! 私はこんな形で勝利を譲られても嬉しくなんかありません!!」
エリスが凄い剣幕で言ってきているのだとわかる。それでもユミールは余裕を崩さなかった。
「別に勝利を譲ったなんて思わないでください。私が棄権したのは単純に貴女の勝ちたいという意思に魅入られたからに過ぎないのですから」
その予想外な言葉にエリスは言葉を詰まらせる。そして、ユミールは正面を向き、口を開く。
「少しおばさんの昔話に付き合ってくださいませんか?」




