39話 屈辱4
「ようやく私の番か〜」
三回戦を行うべくスタジアムのフィールドに立ったエリスは大きく伸びをした。
二回戦では、初戦が力の拮抗した激戦で満身創痍だった対戦相手が万全のエリナを見て棄権を申し出たため、不完全燃焼だった。
三回戦の対戦相手は初戦、二回戦共に旧会場で行われていた為、ほとんど情報は無い。ただ、あちらで見ていたカトウの話だと面白い格好をした女性らしく、初戦、二回戦共に相手を自分に一切触れさせなかったとのこと。
そんなことは果たして可能なのかと思う一方で、そんなことを容易にこなしそうな人を身近に知っているだけに、ありえそうだと思ってしまう。とはいえ、自分も化け物に等しい人物に教わってきて、それなりに強くなった自信はある。
どんな相手だろうと簡単に負けるつもりは無い。
エリスが意気込んでいると、通路の奥から誰かがやって来るような気配を感じ取った。
ゆっくりと一定した感覚で鳴る微かな足音が、エリスの額に汗を流させる。
そして、天高く昇る陽の光が彼女の姿を鮮明に映し出す。
上を白、下を黒で統一した袴姿の女性が通路に繋がるおおっぴらに開かれた扉から現れた。
女性の胸元には黒い胸当てがつけられており、胸の大きさを確認することは出来ない。黒に限りなく近い茶髪を後ろで束ねているその女性の中で、何よりも目を引いたのは、女性の左手に握られたエリスの身長を越える程の長さを持つ長弓の存在だろう。しかし、彼女は矢と思しきものは持っていない。
女性は目を閉じたまま、エリスと対峙する。
「……おや、呼吸の音が若いですね……間隔も短い、まるで二十にも到達していない少女のような呼吸音……なるほど、次の対戦相手はエスカトーレの生徒さんでしたか」
女性の言葉を聞いた瞬間、エリスは目を見開いた。何故ならその女性はここまで目を閉じたまま開いてないのだ。
エリスは恐る恐る尋ねた。
「もしかして……目が見えていらっしゃらないんですか?」
その問いに対し、女性は目を閉じたまま微笑んだ。
「不安そうな声……どうやら私の前情報は掴んでおられない様子……いいでしょう、お答えします」
ゆっくりとした口調でそう告げると、女性はエリスに向かって一礼した。
「私はユミール。元はホワイト国家の一つ、アルティメス共和国の貴族、メルクーラ・ハウジエッテ伯爵の次女でしたが、残念なことに私の魔法の才能に気付いた家の者に追い出されまして、今はマゼンタの端の方にある町でのんびり暮らしております」
「えっと……失礼かもしれませんが、そんな人がなんでこの大会に?」
「それは話しても詮無きこと。貴女が知るべき情報は唯一つ」
そして、ユミールと名乗った女性はもったいぶるように、告げた。
「私がルーンの持ち主であるということだけです」
その言葉が告げられた直後、試合開始の合図が鳴り響いた。




