38話 マゼンタ最強決定戦8
「カッチカチ~」
ベルの楽しそうに告げた言葉に苦笑することしか出来なかった。
試合開始の合図と共にカトレアが自身を中心に氷を展開し、相手どころかフィールド全体を氷漬けにしてしまったのだ。
どうやら手加減などは本気で考えていないらしい。対戦相手の男も死なないように抵抗するだけで手一杯だったらしく、ほとんどなにも出来ていない。
会場全体も目の前で起きた現象にざわついている。
まぁ、無理も無いだろう。彼女のような氷結系の魔城使いに出来るのはせいぜい氷像を作る程度。俺とか一部の魔法使いならまだしも、経歴不明、所属不明のぽっと出魔法使いがいきなりこんな大魔法を詠唱無しで瞬時に展開すれば注目されるに決まってる。
不甲斐ない行動で恥をかいてしまったベルの変わりに自分が魔人の力を全世界に思い知らせる必要があるって言ってたから一応、全力と自分たちの種族を明かさないことを前提条件に出したんだが……今更ながらすごく公開してきた。
だいたいあいつはどうするつもりなんだよ?
ベルはまだ俺の妹ということにしてあるから国外に知られない限りはどうにでもなるが、流石にカトレアは俺の力だけじゃどうにもできないぞ?
(……とりあえず帰ったらクリスに相談しとくか……あいつの方がこういう時の対応に優れているし……ん?)
カトレアのことについてどうするかと悩んでいると、白衣のポケットに入れておいたサテライトが反応した。
どうやら誰かから通信魔法を受信したらしい。
俺がサテライトを起動すると、耳元に声が届いた。どうやら相手はカトウのようだ。
『カトウか?』
声に出さずとも話すことが出来るのが通信魔法の良い点だ。しかし、通信魔法を発動したにもかかわらず、カトウはなんの反応も見せない。
『どうした? なにかそっちで起きたのか?』
そう聞くと、ようやくカトウが言葉を発した。
『メルランが意識不明の重体になった』
「…………はぁ!? いったいどういうことだよ!!」
予想外な返しに思わず叫んでしまう。生徒達からの視線に気付き、俺は軽く息を整えた。
『とにかく今からそっちに向かう。話はそっちで聞くから』
『わかった。確かこれを開けた場所に置いとけば良かったんだよな?』
すぐに意図を察してくれたカトウとの通信を切り、今度はティガウロに通信魔法をかける。幸いなことに、ティガウロはすぐに反応してくれた。
『どうしました?』
『少し向こうでトラブルがあったらしい。俺はもう一つの会場の方に向かうからこっちで子ども達を見といてくれ』
『そうしたいのは山々なんですが、僕は一応騎士としてユリウス様をお守りしろと父からも言われておりまして……』
『こっちにはアリスがいるんだからユリウスなら察して二つ返事で許可を出すだろ。ピピリカとコウが近くで存在がばれないように警護しているのは知っているが、一人は傍にいた方がいい。すぐにうちのメイドも来るから俺が戻るまで子ども達を頼むぞ』
『わかりました。ユリウス様の許可も得られたのですぐに参ります』
ティガウロからの通信魔法を切り、俺は未だに俺の膝の上で心配そうにこちらを見てくるベルを抱えて俺の席に座らせた。そして、子ども達にこれだけ伝えた。
「向こうにいるカトウからの連絡で少し向こうに来て欲しいそうだ。俺の代わりにティガウロを呼んだから少しの間席を外す。クレフィ、もしもの時はお前が先輩として後輩達を守れ。何かあったらすぐに連絡しろよ」
「かしこまりました」
クレフィがそう答えたのを聞いて、俺は転移魔法を発動させた。
目の前にはカトウが立っていた。
「遅かったな?」
「ティガウロにアリスや他の生徒を守るように頼んだからな。それで? 状況は?」
「こっちだ」
そう言って振り向いたカトウが歩き出したのを見て、俺は彼の後についていった。




