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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第7章 最強決定戦編
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38話 マゼンタ最強決定戦3


「…………それで何がどうなってこうなった?」

 晴れ晴れとした青空の下、白い雲がゆらゆらと漂い、魔導学園エスカトーレのスタジアムは大盛り上がりになっていた。

 しかし、俺の頭の中は疑問符で埋め尽くされている。

 何故って?

 そりゃ今日の対戦相手がユリウスと聞いていたのに、フィールドに上がったのは魔導学園エスカトーレの制服に身を包んだクレフィだったからだ。


「今日は胸を貸してもらうつもりで来ました。加減無用に願います」

 いつでも戦闘準備は出来ているぞとこちらに構えをとってくるクレフィ、しかし、俺は未だにこの状況が理解できていない。いや、この状況になった理由はわかる。

 おそらく、クレフィが校内戦入賞の権利を使って対戦相手を俺にしたのだろう。

 元々週末に開かれるマゼンタ最強決定戦において、週の始めにトーナメント表を開示するのは校内戦の入賞者に初戦の対戦相手を好きに選ぶことができる権利を使わせる為だ。元々シードという扱いになっている生徒がわざわざ他の対戦相手と入れ替わることはあまりないが、ここ何年かはメルラン先生がシード同士で初戦をやっていたこともあってもはや珍しくもなんともない。元々彼女は俺達とは真逆のシードだった訳だし、シードにもなれて、俺とも当たらなくてユリウスにとっては万々歳だろうな。

「……なるほど、それで来ると思っていたユリウスが来なかった訳か……それで? なんで俺を対戦相手に選んだ? ユリウスに頼まれたか?」

 俺の問いに対して、彼女ははっきりといいえと答えた。

「私は旦那様に取れと言われて校内戦で優勝しました。しかしながら、それで満足して終わりではいつまでも旦那様が求める私にはなれないと思い、誠に勝手ながら、初戦の対戦相手に旦那様を選ばせていただきました。私の得意魔法は魔力消費量の多い合成魔法ばかり……これでは勝ち抜きは不可能でしょう。だから、私の全力をもって、旦那様とあいまみえとうございます!!」

「…………そっか……なら、他に言葉は必要ないな。来いよ、クレフィ……お前の仕える主人がどれ程凄い存在なのかを改めて教えてやる」


 試合開始のゴングが鳴ると同時に仕掛けたのは、クレフィだった。彼女は、炎属性の小型攻撃魔法と風属性の小型攻撃魔法をものの数秒で合成し、観客を沸き上がらせるほどの巨大な炎の玉を作り上げた。

「行きます!!」

 彼女の作った炎の玉が迫りくる。

 それを俺は避けなかった。

 巨大な爆発音が轟き、爆炎がフィールドに広がっていく。

「わざわざ攻撃する前に報告してくるなんて律儀だな」

 彼女の様子見攻撃を正面から無傷で受けた程度でこの騒ぎ用には俺も驚きしかないが、相対するクレフィは当然のように受け入れていた。

「遠慮せんでいいぞ? 俺がお前の全力を全て無傷でしのいでやる。無理せず全力でこい。俺にお前を認めさせてみせろ」

「かしこまりました!!」

 彼女の目が真剣なものになったのを見て、彼女の成長を実感してしまった。

 以前の彼女であれば、俺に対して攻撃するなど恐れ多いとかなんとか言って、こんな風に魔法を撃ち込んでくることはなかっただろう。

 彼女の才能はシズカをも越える能力だ。

 だが、彼女は一歩引いた立ち位置で傍観しているだけ。それが勿体無いとずっと思っていた。

 それが今、俺に遠慮することなく魔法を撃ち込み続けている。これが嬉しくないはずがない!!


「どうしたクレフィ!! お前の力はこんなもんじゃないはずだろう!!!」

 彼女の合成魔法を結界の魔法で防ぎながら、俺は彼女に声をかけた。

 彼女は既に肩で息をしており、合成魔法の生成速度も下がってきていた。それでも常人に比べれば、驚くほど速いのだろう。

 そもそも合成魔法とは、既に発動している魔法同士を更に魔力を消費して合成させる魔法だ。二つの属性を持ち、更には小型魔法同士でもその威力は大型に匹敵するレベルになる。だが、同時に合成に時間がかかりすぎるのと、大型魔法程ではないが、魔力をかなり消費してしまうという欠点もあった。

 だが、クレフィの合成速度は俺よりも速く、また、薄紫の魔法ランクの中でも相当魔力が高い。

 こと合成魔法において、彼女の才能は、この俺をも凌ぐ。


 クレフィの目が鋭くなり、俺に向けられる。

 その目がどれ程必死になっているのかを物語っており、この試合も終わりが近いことを知らせてくる。

 彼女の洗練された魔力が綺麗に練り上げられ、彼女を中心に半径五メートル程の半透明な半球体を作っていく。

 彼女が全力の一撃を繰り出す準備を終えた。

「エンゼルウィスパー!!!!」

 彼女らしからぬ大声が辺りに響き渡る。

 ここに来て始めての魔法名だけの簡易詠唱。そうしなければ自分の安全を保障しきれない大技だということなのだろう。

(……まだ二回目だというのにもう物にしたか……)

「でも、まだまだシズカにですら遠く及ばないな」


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