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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第7章 最強決定戦編
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38話 マゼンタ最強決定戦2


 五人で色々と話していると、会場が急にざわめき始めた。しかし、その理由は俺達にもわかっていた。

「……遅いな」

「ですね」

 俺の呟きにティガウロが反応する。

 既にトーナメント表の発表時間である十一時を十分も過ぎているというのに、トーナメント表の発表が未だに行われていない。それどころか運営委員の者達からなんの連絡もない。

 マゼンタ最強決定戦の運営委員はユリウスの親父さんである先代国王がマゼンタ最強決定戦を行う際に必要ということで作った集まりだ。こと最強決定戦においては、王であるユリウス並みの発言権を持っており、その代わりとしてスムーズな進行を義務付けられている。となると……

「ティガウロはユリウスの護衛も兼ねていたんだよな?」

「はい。奥に入る際にユリウス様が僕にここに残るよう言われたのでここにいますが……」

「つまり今は護衛がついていないのか……」

「!? すぐに確認してきます!!」

 俺の呟きに何かを察したティガウロは、慌てて奥の方に消えていった。まぁ武闘派ではない管理委員に彼が止められるはずもないからすぐにこの状況の真相もわかることだろう。まぁ、ティガウロにはああ言ったが、仮にもユリウスは世界最強の魔法剣士と称される男だ。真実を見抜くルーンを持つあいつには人の企みなど容易く見破るし、襲われたところで涼しい顔でいなすだろう。元来、あいつに警護なんて必要ないんだから、あいつの心配なんてするだけ無駄だろう。

(もしも俺の手が必要ならティガウロが呼びに来るだろ……あぁ……帰って寝たい……)

 しかし、俺の考えとは裏腹に、30分が経ってもティガウロは戻ってこず、ついに現場は荒れ始めた。


「……先生……あれってまずいですよね……」

 不安そうに聞いてくるエリスの頭を軽く撫で、彼女に言葉をかける。

「そうだな……さすがにこれは不味いな……」

 再び目線を前に戻せば、参加者達が運営委員会の男に詰め寄っていた。

 まったく、ティガウロまでいったい何をやってんだか……とはいえ、これ以上の暴動は看過出来ないな。

「俺も少し行ってこようと思う。メルラン先生はここでエリスと待っていてください」

「わかりました」

「クレフィ、お前は俺についてこい」

「かしこまりました」

 二人が俺の意見に了承の意を示したことで、俺はクレフィを使って人垣の方に歩いていく。

 やがて、人垣の視線が俺に向けられると、俺は一言彼らにお願いした。

「どけ」

 彼らは俺を見て何故か怯えたような表情を見せると、親切にも俺に道を譲ってくれた。何人かは腰が抜けたかのように倒れていたが、そういうこともあるだろう。

「こ……困ります……民間人は誰も入れてはならないと……」

 顔を青ざめさせて震える青年が扉の前に立って告げてきた。

 まぁ、彼も仕事だ。理由はどうであれ、誰も通すなという使命を任された以上、彼の行為は何も間違ってはいない。

「そうか。それは悪かったな。……でも、俺も暇じゃないんだ」

 その言葉を彼の肩に手を当てながら告げた。

 次の瞬間には、彼は扉の前から俺の後ろに現れていた。何が起きたかわかっていないようで、彼の戸惑った声が後ろから聞こえてきた。だがまぁ、これで俺の邪魔をするやつはいない。

 俺はゆっくりと扉を開け、クレフィを連れて中に入った。

 中に入れば、広々とした一室に人がまばらに立っていた。立っていた全員が困惑したような表情を浮かべ、こちらを見てくる。いや、ソファーの傍らに立っていたティガウロだけはこちらを向いてすらいなかった。

 そして、この位置からだと、部屋の様子が見渡せた。

 床に座っている仕立ての良い服に身を包んだ男が、ソファーに座る人物に向かって頭を擦り付けていた。

 相手は何故かマゼンタの軍服を着ているユリウスだった。

 ユリウスは不機嫌だと一目でわかるオーラを全身から発しながら腕を組んでソファーに座っていた。

 ユリウスの視線が俺を見つけた。

「やぁマルクト。遅かったな」

「呼ばれてないからな」

 俺の名前を聞いた瞬間、回りの反応が騒がしくなった。だが、こんなことは日常茶飯事なので、俺はその反応を無視して、ユリウスにそう返した。

 俺はこちらを見てニコニコしてくる気持ち悪い親友から視線を外して、改めて周りを見渡し、異変に気付いた。

「……なにもなさ過ぎる。おいユリウス、なにか起きたから進行が遅れてるんじゃないのか?」

「そうなんだ……聞いてくれよマルクト……」

 俺の質問にユリウスは深刻そうな表情を見せてきた。

 そして、ゆっくりと口を開き、次の言葉を紡いだ。

「俺とお前の試合が初戦に行われるそうなんだ……」

「………………は?」

「だから俺とお前がマゼンタ最強決定戦の初戦で戦うことになってるんだよ!! おかしいだろ!! これまで参加すらしてなかった俺達がシードじゃないのはまぁ仕方ないが、それでも一戦目ってのはおかしいだろ!! 決勝とかにすべきだろ!!」

「しかし公平な抽選の結果ですし……」

「お前はいつからこの私に意見できる立場になったのだ?」

「申し訳ございません!!!」

 口を挟んだ土下座中の男が頭を地に勢いよくつけた。

「……キャラ変わってんぞユリウス……てか、そんな理由で進行を止めていたのか、お前……」

「大会の花形が初戦で争うのはおかしいだーー」

 喚き散らすユリウスの肩に俺は手を置いた。

「お前……そんなふざけた理由で俺の時間を奪ったのか……」

「……マルクト……何を怒ってーー」

 その言葉を最後にユリウスはこの場から消えた。

 その瞬間、現場は騒然となるが、俺は彼らに言いはなった。

「あのバカの言葉は無視してくれていい。責任というかあいつの怒りの矛先は全部俺が受け持つからお前達が気にする必要はない。それじゃ、速やかに進行しといてくれ」

 運営委員の者達が困惑しているなか、ティガウロがいぶかしむような視線をこちらに向けてきていた。まぁ、城に帰しただけだということはあいつも理解しているだろうし、この状況をどうにかしたいと思ってはいたのだろう。

 あいつは俺が扉から出ていくのを黙って見送ってくれた。


 さて、初戦の相手はユリウスか。久々にあいつと本気で戦えるのか~少しわくわくしてきたな。


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