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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第7章 最強決定戦編
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37話 誕生日会4


 そこは食事を取る為に作ったが、屋敷の設計上無駄に広くなってしまった部屋で、普段はユリウスに言われるがままに買った興味もない調度品が飾られるだけの部屋だった。

 しかし、目の前に広がるは、それらの調度品を全て片付け、代わりに色々な飾り付けがされた部屋だった。

「……嘘……なにこれ……意味わかんない……てかなんで皆が居んの?」

 中に居るのは見えるだけでも学園の制服を着ているエリスとエリナ、ユウキ、そして、ドレス姿のアリス。何故かメグミとベル、それにクレフィまで学園の制服を着ている。他にもエリスとエリナの両親や、ティガウロ……ってなんでユリウスまで居んの!?

 俺はゆっくりと音が出ないように扉を閉めた。

「……さて、これはいったい何事だ?」

 事情を知っていそうなクリスは見つからなかったし、呼び出すにしたって寝起きで繊細な魔法は暴発のリスクがあるから出来るだけしたくない。もしも転移先をミスって壁と同じ座標になったりでもしたら……

(今度は皿じゃないから粉々になったじゃ済まないよな……もう考えるのだるいし、普通に聞くか……)


 月曜日からほとんど寝ておらず、ようやく取れた睡眠もたったの四時間。この時の俺にはまともな思考判断が出来ていなかったんだと思う。

 だからこそ、いつもならこうなるってわかっていたことが、すぐに頭を過らなかったんだと思う。

 一つだけ言っておこう。

 俺は今、ガウンを着ているだけのラフなスタイルだ。


 扉を開けると、全員からの視線を一身に受けた。だが、俺はそんなことなど気にせず、彼らに問う。

「これはいったいどういう集まりだ?」

 そう訊いた瞬間、全員の表情が驚きの表情で固まった。

 当然俺は真顔だが、まさかそんな反応をされるとは思ってもみなかった。

 すると、奥にいたクリスが音もなく近付いてきて、俺に恭しく一礼した。

「旦那様、今日はエリス嬢とエリナ嬢の誕生日にございます」

 さも俺が知っていて当然のような言い方をするが、初耳である。

「そうなのか? まぁ、それはいいとして、なんで俺の家でやってるんだ?」

 俺の言葉で再び空気が凍る。クリスも珍しく目を見開いて硬直している。

 だが、当然の疑問じゃないだろうか?

 徹夜ばかりの平日を終え、ようやく訪れた休日に、何故か自宅でパーティーが行われている。主である俺には一切知らされず。


「ベルちゃんベルちゃん、ちゃんと許可取ったんだよね?」

「取ったよ! ベルはちゃんと師匠(せんせい)に許可取ったもん!」

 沈黙が支配する空間ではメグミとベルの少し離れたところで行われた会話もよく聞こえてきた。

 うちでパーティーをしていいなんて許可を出した覚えはないぞ?

「どういうことだ、クリス?」

「申し訳ございません。月曜の夜八時頃にお嬢様がうちでエリス嬢とエリナ嬢のパーティーを開きたいとおっしゃられて……」

「それで?」

「お嬢様に窺いましたところ、旦那様には許可を取ったと……」

 俺が許可を出した? 今週の月曜日に?

 …………そういえば、仮眠を取っている時にいきなり変な声がして起きた記憶があるな……もしかしてその時か?

「……ベル……部屋に入る時はノックをしろといつも言ってるだろ……」

 ベルは未だに不満そうな顔をしていたが、落ち込んだように俯き、すぐにごめんなさいと謝ってきた。

「クリスも……こういうのは一度きちんと俺に許可を取るべきだったんじゃないか? 少なくとも今日この時間にこの部屋を使うなんて俺は一言も聞いてないぞ? まさかお前まで俺の寝ている時に訊いたなんて言わないよな?」

「あ! ……言うの忘れてました……」

 その声はクリスの口からではなく、他のメイドと一緒にこちらの様子を窺っていたリーナだった。彼女は俺の視線に気付くと、舌を出しながら自分の頭を軽く小突くというよくわからないが無性にむかつく仕草をしてきた。

「……よりにもよって俺への伝達をあいつに任せたのか?」

「申し訳ございません。私も旦那様の補助で手一杯でしたので、お嬢様方と仲良くしていたリーナにパーティーの件は一任しておりました」

「まじか…………しょうがない……リーナ、ちょっとこっち来い」

「うげっ……かしこまりました……」

 うげってなんだよ、うげって。

「リーナ、今回のミスは報告を怠ったお前にも責はある」

「……減給だけはご勘弁を……」

「減給なんかするわけないだろ……ただ……お前には失敗の許されない重大な任務をしてきてもらう」

「……任務……ですか?」

 リーナが首を傾げたのを見て、俺は転移魔法で自分の手元の少し上を座標に金貨の大量に入った布袋を転移させた。

「そうだ。お前には今から服屋に行ってきてもらう。エリス、エリナ、好きな服を買ってきていいぞ?」

「やった~!! 先生ってば太っ腹~!!」

「私達の為にそこまでしなくても……」

 エリスとエリナが俺の方に駆け寄ってきて、そんなことを言ってくるが、俺はエリナの頭に手を置いた。

「せっかくの記念日なんだ。この程度気にしなくていい。それに……」

 俺は未だにしょげている様子のベルの頭をワシャワシャと撫でた。

ベル(こいつ)の誕生日は忙しくて祝ってやれなかったからな。ベルにも楽しんでもらいたいんだよ。それとアリス、メグミ、ユウキ……お前達にも少し早めのプレゼントだ。クレフィもリーナを手伝ってやってくれ」

「か……かしこまりました!」

 クレフィが頭を下げてくる横で、アリス達が嬉しそうな顔をしていた。喜んでくれるならなによりだ。

 さて、仕上げだ。

「集まってくれた方々には私的な理由で済まないんだが、パーティーは一度仕切り直しとさせていただきたい。いいか、リーナ!! 金に糸目なんかつけなくていい! 皆に似合うドレスを見繕ってこい!!」

「あいあいさ~!!」

 軍人がするような敬礼を俺に対して行ったリーナは、子ども達を連れて、街へと向かっていった。


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