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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第7章 最強決定戦編
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37話 誕生日会1

 

「とりあえずこれで一段落ついたな……」

 俺は背中を背もたれに預けながら、強張った体をほぐす為に伸びをした。

 部屋に掛けられた針時計を見れば、時刻は夜の八時を少し過ぎた辺りをさし示していた。

「飯を食ってから少し効率が上がったとはいえ、やはりやることが多いな……今更ながら、教師になったのは失敗だったかな……」

 そうは思いつつも、今の仕事が楽しいと思っているのも事実で、自分が教えている子ども達の成長を見る機会なんて、研究所に籠もっていたら早々無い。

 肉体面や精神面への負担を考慮しなければ今の生活は前よりも充実していると言えるだろう。

「とはいえ、きついのも事実……明日までに仕上げなきゃならん仕事も残ってるし、はぁぁぁ……今日も徹夜確定かぁ……」

 最近は校内戦で仕事する時間が増えたものの、あのバカマッシュのせいで、俺の管理していた仕事を一新する羽目になったお陰で、ほとんどがやり直し。俺の身勝手でマリアに無理を強いてしまった以上、彼女の見逃しはほぼ俺のせいと言っていいだろう。あくまで俺の補佐という立場の彼女が、一応研究所に勤めて長いマッシュの仕事に深く立ち入れなかったのも仕方無い話…………とはいえ、エリスを関わらせちゃった以上、無罪放免にする訳にもいかず、1ヶ月の自宅謹慎という処分を所長が取らざるを得なかったのもわからなくは無い。

(……俺ってあいつの頑張りってちゃんと見てなかったんだなぁ……)

 研究所の仕事がほとんど回っていない。

 校内戦の期間中、マリアが謹慎になった後は、俺も試合の時以外は研究所に入り浸るようにしていた。だが、俺が普通に働いていた時よりも仕事が全然回らなかった。

 新人のミアとアシュリーの二人も新人とは思えない程よく働いてくれるし、メアリー主任もいくらか優秀な人材を派遣してくれている。それでも、マリアがいた時の方が遥かに効率が良かったように思えてならない。一人一人は確かに優秀だ。でも、纏まりが無さ過ぎて効率が悪いんだろう。俺が自分の研究も手掛けることが出来たのは、マリアという優秀な右腕が居てくれたからに他ならないといなくなった今だからこそわかる。

(……謹慎開けたらマリアを飯にでも誘うか……)

 そんなことを考えていると、急に眠気が襲ってきた。

「……昨日もほとんど寝てなかったからな……少し寝るか……」

 とはいえ、机に突っぷすには机の上を占領している書類の束が邪魔だ。

 ソファーで寝転がると熟睡しそうだし……もういいや。このまま寝るか。

 俺は椅子に座ったまま、目を閉じた。最近疲れていたこともあり、俺はあっさりと睡魔に敗北した。


 マルクトが寝てから少しすると、扉がゆっくりと開かれ、金髪碧眼の少女が扉の隙間から顔を出した。

「ねえ師匠(せんせー)、今ちょっといい?」

 ベルは以前注意されたことで、マルクトに一応確認を取るが、彼は返事をしなかった。寝ている彼にベルの声は聞こえない。しかし、部屋の中は明るく、寝る時は部屋を暗くするのが常識のベルにとって、彼は部屋の椅子で腕を組みながら俯いている程度にしか思っていない。

 ベルは扉を開け切ると、マルクトの執務室に入って机の前に立つ。そして、緊張したような面持ちの彼女は落ち着かない様子で自分の指をいじりながらマルクトに尋ねた。

「あのねあのね……今度の日曜日がエリスお姉ちゃんとエリナお姉ちゃんの誕生日なんだって……それでね、それでね……」

 そこまで言うと、彼女は昂ぶる自分の感情をおさえるべく、スーハースーハーと呼吸を整え、

「ここで誕生日パーティー!」

 意を決したように告げたベルの少しだけ甲高くなった声に、マルクトの眉根が不快そうに歪む。

「……開いても……いい?」

 まったく喋らないマルクトをうかがい見るようにベルが聞いた。

 するとマルクトがいきなり「うぅん」と唸った。

 それは明らかに返事とは違う唸り声ではあったものの、ベルの表情はみるみるうちに嬉しそうに輝く。

「やった〜!!!」

 ベルは心の底から嬉しそうに歓喜の声を上げると、寝ていたマルクトをびくつかせ、そのまま部屋から飛び出していった。

「!? !? !?」

 いまいち状況がわからないマルクトは訳がわからないといった様子で周りを確認するも、何故か開かれている扉以外に変な点はなく、結局理由もわからず、彼は首を傾げた。


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