36話 放課後1
エリスはいつものように学園内にある森林エリアの演習場に来ていた。
ここは、野戦訓練や森林内での戦闘などを想定した訓練施設であった。
魔法使い同士の戦いは魔法の撃ち合いではあるが、その中でも高名な魔法使いは魔法だけの戦闘に拘らない。あくまで魔法は一つの手段であり、武術や知識を使った戦いといった魔法に頼らない戦闘も行えるのである。
魔力切れや状況の変化で正確な魔法が使える者は限られてくる。その為、この施設はそういった魔法使いを増やす為の訓練施設の一つなのである。
そして、この場にはエリス以外に二人の生徒がいた。
彼女の双子の妹のエリナと友人のアリスである。
また、ベルとメグミの二人は用事があると言ってクレフィという彼女達の先輩と一緒に帰っていった。
「よし! 今日から特訓も再開だし、最強決定戦も近いしで頑張らないとね!!」
「先生の貴重なお時間を割いていただいているんだから頑張ってねー!」
「わかってるわよ! せっかく先生が個人レッスンまでつけてくれるって言ってくれるんだもん……あのバカ兄貴も今日からの予選を勝ち抜いてくるだろうし……絶対強くなってやる!」
そんな張り切っているエリスの視界に一人の青年の姿が映る。校舎から歩いてくるその青年は白衣をはためかせながら歩いてくるが、朝とは様子が違うように思えた。
見るからに表情に覇気が見られない。いつものしっかりしていて生徒のことを思ってくれているカッコいい教師の面影が見られず、目に生気すら窺えない。
学園長に呼び出されたとかで放課後のホームルームは代理の教師が行っていたが、それが原因だろうとすぐに三人は察した。
「だ……大丈夫ですか?」
そう声をかけるエリナの言葉にも、マルクトは「あ……ああ……問題ない……」と微妙な返事を返してくる。
「何かあったのですか?」
そう聞いてくるアリスにマルクトは言いにくそうな表情を見せるが、三人の表情を見て、諦めるように項垂れた。
「……実はさっき学園長に呼び出されてな……」
◆ ◆ ◆
「はぁ!!? 俺にマゼンタ最強決定戦に出ろって!!?」
学園長室に呼び出されたマルクトはソファーから立ち上がる程驚愕していた。
それもそのはず、ホームルームを他の教師に任せてまで来てみれば、いきなり出たくもない最強決定戦に出ろと告げられたからだ。
「いや、待ってください! あの大会は自由参加だったはずじゃないですか!!」
マルクトはテーブルを叩きながら抗議するが、笑みを一切崩さないこの学園長がそんな反論を予想していないはずがなかった。
「もちろん、普通はそうじゃが、このエスカトーレには教師推薦枠というものがあってな……その二枠の内の一つをマルクト先生に出てもらおうとーー」
「断ります!!」
食いぎみに断るマルクトを見ても、カルマの余裕は崩れない。
「そんなことを言っても良いのかの? お主、わしに裏操作をさせておいてまさかユリウス王を呼ぶだけで済むと思っておった訳じゃなかろうな?」
「ぐっ……」
カルマの言った裏操作というのはベルが早々に敗北するように仕組んだ対戦相手の調整であった。
カルマ自身ももし運良く六歳の少女が勝ち残った時が面倒になるだろうと思い協力したが、言ってみれば不正に違いはない。マルクト自身、彼女の正体を告げる訳にはいかない為、強く言い返せない。
「そもそもマルクト先生が私の言うことを素直に聞いてカトウ先生に負けていればこんなことにはならなかったのではないか?」
その言葉も確かにそうだが、共に冒険し、背中を預けるほど信頼している相手に本気を出さないなど、マルクトのプライドが許さなかった。
「……わかりました……後悔しても知りませんよ?」
「その忠告は今更過ぎますよ」
マルクトは項垂れるように頷き、これにより、マルクトの最強決定戦出場が決まった。




