35話 傷ついた少年1
一面を白く彩られた清潔な部屋、太陽の光は窓から射し込み、その部屋に設けられたベッドで体を起こしている赤髪の少年を照らす。
彼の体には異常という異常は見受けられず、体も痩せ細ってなどいない。まさしく健康そのものと言えた。しかし、その表情はどことなく暗い。
そして、雲が遮らない真っ青な空を見た瞬間、彼の瞳から一筋の涙が流れる。
あの日、自分がもっと早く気付いてあげられればあんな結末にはならなかったのかもしれないと、後悔の念が彼を押し潰してしまう。
そんな部屋の中で突然、ノックの音が響き渡る。
赤髪の少年は腕で涙を拭うと、視線をそちらに向けた。
そこに立っていたのは、白衣を着た男性だった。
しかし、彼は医者ではない。それを少年は知っている。
そこに立っていた青髪の青年の手にはバスケットが握られており、そこには赤い果実が詰められていた。
「今大丈夫か?」
そう聞かれ、赤髪の少年はゆっくりと頷いた。
リンゴの詰まったバスケットを傍のテーブルに置いたマルクトは、部屋の丸椅子をベッドの脇に持ってきて座った。
「だいぶ前に目を覚ましてたんだってな。悪い。すぐに来てやれなくて……本当はすぐにでも来てあげたかったんだが……」
「いいんです。母が先生やクラスの皆を俺に近付けないようにしていたのは知っていましたから……」
そう言ったレンの表情には笑みが見受けられたものの、マルクトにはどことなく儚く見えた。
「そっか……体調はどんな感じだ? これ、お見舞いにはフルーツがおすすめって聞いたから持ってきたんだが……食べれるか?」
「……先生……普通こういうのって色んな種類にするもんじゃないの? なんでリンゴのみ?」
「? リンゴ美味いだろ?」
「いや、そういうことじゃなくてさ……まぁいいや……先生、一つ取ってよ」
レンの言葉にマルクトはバスケットの中のリンゴを一つレンに軽く投げ渡す。レンは慌ててそれを受け取ると、そのリンゴを見てほっと胸を撫で下ろし、マルクトにジト目を向けた。
「普通こういうのって切ったりして渡すのが普通なんじゃ……ってなんで先生まで食ってんの!?」
「ん?」
レンが呆れた様子で訴えると、マルクトはリンゴをかじりながら首を傾げていた。
「まぁかたいこと言うな。俺が買ってきたんだから一個くらいいいだろ?」
「……そうかなぁ?」
マルクトが笑みを向けながら言ってくるその言葉に一応納得しつつ、レンはリンゴをかじった。
その後、二人は何気ない話をした。
マルクトの昔の冒険譚や、マルクトが研究してきたことなど、レンが聞きたいと言ってきた話を色々とした。だが、レンの表情に心からの笑顔が現れることはなかった。
「ねぇ先生?」
「なんだ?」
「先生は友達を失ったことってある?」
その質問を聞いた瞬間、マルクトは彼の表情を見た。彼は儚くも真剣な眼差しでマルクトのことを見ていた。
その表情を見て、マルクトは一つ溜め息を吐き、諦めるように答えた。
「あるぞ。学生時代の友達で、さっきの話には登場させなかったが……一緒に冒険をした仲間だ」
その言葉を聞いたレンは戸惑った様子を見せていたが、すぐに沈んだような表情になる。
「……辛かった?」
「当然だ! 短い間とはいえ、一緒の火を囲んだ友達だ……辛くないはずがない!」
その真剣なマルクトの表情に、レンは気圧されつつも、少し安心感を覚えた。
「俺さ、ソラとはちっちゃい頃からの友達でさ。いつも素っ気なくしてたんだけど最後には文句を言いながらも遊んでくれるいい奴だったんだよ……でも、あの日だけはいつもと違ったんだ……」
レンの目から涙が溢れる。
「雰囲気がおかしかったんだ……いつもと絶対に違うって俺はわかってたはずなのに!! 俺がもっとあいつのことをちゃんと見ていれば気付けてたはずなのに……なのに俺は、ただ単に体調が悪いんだと思ってさ……。ねぇ先生……俺がもっと早く気付いていればソラは……」
そこまで言うと、レンの頭に大人の手が置かれる。レンは涙がたまった目をマルクトに向けた。
彼は、憐憫の眼差しをレンに対して向けていた。
「お前のせいじゃない。俺が先生として、もっとお前達の状態に気をつけていればもっと早く対処できたかもしれないんだ……俺がもっとちゃんとした先生だったらお前をそんな辛い状態にせずに済んだんだ……だからお前は、俺を恨んどけ。お前のことも、ソラのことも助けられなかった俺を恨んでくれ……」
そこまで言うと、レンは子どものように泣きじゃくりながらマルクトの胸に抱きついた。
マルクトはその姿を見て、優しく彼の頭を撫で続けた。
読んでくださっていた方々、長らくお待たせいたしました。
弟子は魔王の投稿を本日より再開することに決めました。
何気に一年も休んでいたと考えるとやばいですが、今年度はコロナという最悪なウイルスのせいもあり、大学卒業すら危ぶまれる事態になりました。
とりあえず卒業すら決まっていませんが、また毎日投稿を頑張りたいと思います。




