34話 校内戦決勝9
『な……なんと! クレフィ選手の放った強力な魔法でエリス選手の制服に付与された転移機能が発動!! 決着です!! 安全対策のためにはっていた強力な結界にヒビが入る程の強力な魔法が近付いたエリス選手に直撃!! そ……それにしてもあれは……』
『今のは光と闇属性以外の四属性を使用した合成魔法、エンゼルウィスパーだな。自分を中心とした半径五メートル以内に誰もいないという条件と火、水、風、地の四属性を所持していなければならないという発動者を選ぶ魔法。確か……そのサークル内に入った者に四属性の攻撃を降り注ぐ魔法だったはずだ。学生の身で受けきるのは至難の技だろうな』
(ティガウロの妹が避けなければ発動すらしなかっただろうが……そこは結果論だな……)
ユリウスの視線は、フィールド内で、尋常とは思えないくらい激しい呼吸を行っている少女に降り注がれていた。
発動するのも困難だが、それを維持するだけで、魔力と精神力を大幅に削られる。
『そ……そんなすごい魔法なんですね……』
『合成魔法の中でもかなりの技術が必要な魔法だ。見られただけで今日ここに来た価値があるレベルだぞ!! そなたも教師を名乗るならそれくらい知っておくべきだ!』
『す……すみません……』
『まったく……とにかく、彼女は決勝に相応しい勝負をし、ここまで勝ち残ってきた相手に敬意を払って大技で倒した。二人の健闘に拍手くらいしたらどうだ?』
ユリウスの言葉に、苦しそうに呼吸をしていた少女に見入っていた観客は、その手を鳴らし始め、決勝で戦った二人に拍手を送った。
◆ ◆ ◆
試合が終わって一時間くらい経つと、表彰式と閉会式を行う準備が整った。ユリウスやカトウが威圧感を放ちながら命令に近いお願いをしてきたので、俺は指を弾いて魔法を発動させた。すると、一瞬で戦闘用だったフィールドはその姿を変え、表彰式の場となった。
『それでは、これより表彰式を行う。呼ばれた者は、壇上に上がり、私の前に来なさい』
壇上に立ちながらそう言ったユリウスに、観客席がどよめく。本来であれば、その場に立つ予定だったのはカルマ学園長だ。しかし、良いものを見せてもらったとユリウスがカルマに無理言って話を通させたのだった。
『まずは第三位、カルディマ・スパンターリ五年生。壇上に上がりなさい』
声を遠くまで通らせる『エコー』という魔法を使用しているユリウスに名を呼ばれ、緊張した様子の青年が甲高い声で返事をし、壇上に向かって歩き始めた。
三位は、エリナが不戦敗として扱われたため、五年生の男子生徒カルディマ・スパンターリが入賞した。
確かに実力者ではあるが、優勝候補には挙がらないレベルの魔法使いで、胸の校章は、彼の魔法ランクが青であることを示している。
予選トーナメントでも三位だったが、決勝トーナメントでは相手に恵まれていたことで、ここまで残ったらしい。
実力のある生徒同士が当たることで、優勝してもおかしくないような生徒が準準決勝すら見ることなく負けるなか、こうして生き残る生徒もいるのだから、トーナメントとは不公平だ。
『第二位、エリス一年生、壇上に上がりなさい』
「は……はい!」
二位は決勝で敗退したエリスだ。
予選では同級生のアリサに負けたものの準準決勝にてリベンジし、準決勝ではエリナと強力な魔法を撃ち合い、見事勝利した。しかし、決勝ではクレフィの強力な合成魔法に成す術なく敗北。だが、先程見た時には晴れやかな表情を見せていた。
「ふむ、前に会った時よりもかなり成長していたな。素晴らしい試合だったが、最初は焦りが見えた。やはり、本番でいかに冷静さを保てるかは、精密な魔法と剣の両方を使う魔剣士には必要な能力だ。光るものが見えるし、私が直接指導してやりたいところだが、マルクトが許さんだろうな。マルクトの下でもう少し学ばせてもらうがいい。そして、将来は妹のエリナと共に近衛騎士団に来ないか?」
「あ……ありがとうございます。……ですが、すみません。私はそれに応えられません」
「……そうか……何かなりたいものでも出来たか……」
「はい! 私は先生みたいな研究者になりたいんです! 以前研究所に行った時、私の知らないことがいっぱいあって……無知すぎる私は、先生を困らせてしまうような大きなミスをしました。……あそこで先生が私を止めてくれなかったら、私はここに立てなかったんです。魔力の色で悩む私を先生が叱ってくれたから、今の私があるんです……」
ユリウスと何かを話していたエリスが、急に担任教師として後ろに立っていた俺の方を見てきた。
「先生!! 私、魔力の色を変える研究をしてみたい。あのキノコ頭の人みたいに危険な研究は絶対にしないよ! だから、先生! 私の夢に協力してね!」
「……いいぞ。エリスがそれを望むのであれば、俺は最大限の力を貸そう」
「ありがとう、先生!! 約束だからね!」
不可能と言われてきたことをやろうとしている彼女に、俺は無理だという言葉をかける気にはなれなかった。
多くの研究者達が生涯をかけて費やした研究成果は不可能と出ている難問。それでも、彼女がしたいと言うのであれば、俺に否定する権利なんかない。
ただ、一つ言えることは、彼女が笑顔でその夢を語ってくれたことが、教師になった俺にとっては最高の恩返しだった。
『それでは最後に、魔導学園エスカトーレの校内戦を見事制したクレフィ四年生、壇上に上がりなさい』
「はい!」
ユリウスに呼ばれたクレフィが、優雅な仕草で壇上に上がっていく。
優勝は見事俺の指定した条件をクリアしたクレフィだった。
ここまでその実力を見せなかったことで対策されていなかったのもあるだろうが、彼女の実力は本物だ。経験の差を考慮しなければ、前年度の優勝者、メルラン先生にもひけを取らない強さだろう。
「とても驚かされたな。マルクトから聞いていたが、未だに信じられん。あの時、今にも死にそうだった少女がここまでの成長を見せるとはな……」
「はい、あの時旦那様が私を助けてくださったからこそ、私はこうして成長できました」
「そうか。……それで? 君が望むのであれば、宮廷魔術師に推薦するのもやぶさかじゃないぞ?」
「ありがとうございます。嬉しい提案ではありますが、お断りさせてください」
「君もか……今日は振られてばっかりだな」
「申し訳ありません。ですが、私はここまで育ててくださった旦那様の使用人でいたいのです。お父さん以外の皆が拒絶していたあの頃の私を唯一受け入れてくれた旦那様に……私は生涯をかけて恩返しがしたいのです」
「ふむ……マルクトはああ見えて案外もろい所がある。普段はああやって笑顔を見せてはいるが……大切な弟子を失ったことを心の奥底で今も嘆いているはずだ。だからあいつが、無理しないように見といてくれ。私には出来ないことだ。親友をよろしく頼む」
「わ……わかりました。全身全霊で務めさせていただきます!」
いきなり少し離れた俺にも届く声でそう言って頭を下げたクレフィ。どうやらユリウスに仕事を紹介されたようだ。良かった、良かった。ユリウスの紹介なら信用できるからな。
(……まぁ……少し寂しいが、クレフィが選んだのであれば、俺も背中を押すしかないか……)
クレフィが壇上から下り、元々立っていた場所に戻るとユリウスが再びエコーを発動した。
『今回残った3名には、マゼンタ最強決定戦に出られなかった者達の分も頑張ってもらいたい。今年は波乱ばかりで実に面白い校内戦であった。最強決定戦も期待している!! ……それではこれより、閉会の儀に移る!!』
その後、閉会式にてカルマ学園長が締めの挨拶をしたことで、二ヶ月に渡った校内戦は終わりを迎えた。
皆様おはようございます。
『弟子は魔王』を書いてる鉄火市でございます。今回は大事なお知らせをしにやってまいりました。現在、執筆中のこの小説は今日をもちまして、再び長期休暇に移らせていただきます。
再開は未定です。というのも、これから就職活動に入るため、2作品も書く余裕がないのです。そのため、やむなくこちらの『弟子は魔王』を一旦書くのを止めます。
再開は就職の内定をもらうまで……を考えております。
さすがにリアル生活を疎かに出来ないのです。誠に申し訳ございません。
一応、この後の流れに詰まった訳ではないので、打ちきりにする気はないです。
7章からは最強決定戦に入るので、また戦闘回ばっかりです。ただ、重要人物を出したりと、主要なキャラ達を出していくつもりなので、今回よりはマシになっている……と思います。
それではここまでのご視聴ありがとうございました。
再開後もどうかよしなにお願いいたします。




