34話 校内戦決勝3
魔導学園エスカトーレ、この学園の校門を抜ければすぐに見えるドーム型の建物。そこが、本日の決勝戦が行われる舞台であった。
「……いやはや、まさかこの学園に赴く日が来るとは思ってもおりませんでした……」
そう言ったのは執事服に身を包んだ壮年の男性だった。彼は娘が普段通っている学園の風景を興味深そうに見始めた。
「そういや、ここに来る頼みに関しては頑なに断っていたな。そんなに来たくなかったのか?」
少し前を歩いていた青髪の青年が羽織っている白衣のポケットに手を突っ込みながらそんなことを聞いてきたことで、執事服の男性は、「ええ」と答えた。
「この学園は、クレフィを一度拒んだ際に、二度と足を踏み入れないと誓った地でございます。仕方なかったこととはいえ、そう簡単には割りきれないのでございます」
「そっか……そりゃ悪いことしたな。そんなお前をこんな場所に来させて……」
「いいえ、旦那様。これは私の我が儘。娘の晴れ舞台を見逃す理由にはなり得ません。ましてや、娘の今後が決定付けられる戦いであるなら尚更です」
白髪の男性は、青髪の青年に頭を下げた後、姿勢を戻して、後方を歩いている少女を見た。
少女と言うには、大人びており、その佇まいからは気品さすら伺える。だが、その少女の表情は、わずかに緊張しているように見えた。
「クリス……俺はエリスの担任教師として、一年B組の席にいる。クリスは学園関係者じゃないから観客席しか取れなかったよ。ほれ、チケット」
そう言われて手渡されたのは一枚のチケットで、クリストファーは、再びマルクトに頭を下げた。
「では、観客席でことの次第を見守るとしましょう。……クレフィ、旦那様のお顔に泥を塗るような戦いはしないように」
「ええ、わかってます……父さん」
クリストファーは彼女の言葉に頷き、再びマルクトに頭を下げて自分の席に向かっていった。
「…………クレフィ」
「……はい」
クリストファーが見えなくなったことを確認し、マルクトはクレフィに声をかけた。
「今日の結果がどうであれ、今夜の九時に俺のに来い」
「……かしこまりました」
「それから…………期待してるぞ」
マルクトは、その言葉を背中越しで伝え、彼女の反応も見ずに観客席の方へと向かっていく。
てっきり期待されていないと思っていた。
あの方の信頼を自分の自己満足で打ち砕いてから二ヶ月。ここまで楽な道じゃなかった。
「はい!」
眼鏡をとって、流れてしまった涙を拭ったクレフィは、背中を見せるマルクトに聞こえるよう返事をした。
あと一試合。
この試合は絶対に負けられない。もちろん相手は弱くない。
私が勝つと周りは噂するけど、この世に絶対の勝利なんかない。油断や不調で遅れをとって負けることもある。
負けられない。
私はあの人の傍にいる権利を勝ち取るためにーー
「今日は本気でいきます」
その言葉を口に出したクレフィは、用意された控え室の方へと向かった。




