34話 校内戦決勝2
エリスは魔導学園エスカトーレが誇る巨大なスタジアムの入り口前に立っていた。顔が強張っているエリスは、自分の応援に来てくれた同級生達に囲まれながら、今日の対戦に備えて心を落ち着けようとしていた。
エリナと考えた戦術もある。魔力も使用せずに休養をとって、コンディションも整えた。剣の腕もバカ兄貴やおじさんと稽古して、一昨日よりも少しは上達したと思う。
後は、油断しているであろうクレフィ先輩に強力な一撃を叩き込むだけ。
……大丈夫。……きっとうまくいく。マゼンタ最強決勝戦への出場が決まった以上、相手が本気でくるはずがない。
大丈夫……大丈夫……大……丈夫……なのに震えが止まらない。
友達がなんか言ってる。……でも、おかしいな……何を言ってるのかがよくわからない。
期待してる?
……やめて、そんなに期待しないでよ。
私がすごい?
……違う……私は皆が思ってるほどすごくない……周りがすごくて、周りの人が優しいから私を強くしてくれただけ……私はすごくない……。
頑張って?
……そうだ。頑張らないと……マゼンタ最強決定戦に出れなくなったエリナや、アリサちゃん、ベルちゃんのためにも…………私が……頑張らないと……。
次の瞬間、目の前で大きな音がして、エリスは驚いて目を瞑ってしまった。
恐る恐る目を開いてみると、そこには両手を合わせているエリナが心配そうにこちらを見ていた。
「え……エリナ?」
何がなんだかわからないまま、そんな奇行に走った妹の顔を不審な目で見ていると、彼女は急に抱きついてきた。
「大丈夫だよ。お姉ちゃんはお姉ちゃんなんだから、お姉ちゃんに出来ることをいつも通りやればいいんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、彼女が何を言っているのかがわからなくなった。
きっと自分が一番悲しいであろうエリナに、私の心配をさせてしまった。
3位決定戦に出たかったはずだ。魔力酔いをしてしまうなんて、前のエリナならあり得なかった。それは、エリナ自身が自分の限界を知っており、威力よりも技術という部分で戦うスタイルだからだ。
それなのに、彼女は自分の限界を超えた攻撃をした。しかも二度。
あの攻撃を受けて、エリナの負けたくないって思いが伝わってきた。
きっと悔しいに決まってる。……だから、そんなエリナのぶんも私が頑張らないといけない。
「で……でも……私はエリナのぶんまで……」
「……何言ってんの? ……私の分も頑張ってなんてお姉ちゃんに頼んでないよ? ……お姉ちゃんが勝手に私の思いを背負わないでよ」
「…………え?」
その言葉にエリスの目が点になってしまうが、それほどまでに彼女の言葉はエリスに衝撃を与えた。
「だって私達一年生だよ? 後四年間は校内戦に出れる訳だし、いつかはお姉ちゃんを倒して優勝することだって出来るもん。私の目標は、別にこの校内戦で拘る必要はないの……」
「……エリナ……?」
「だから、私はクレフィ先輩を応援するね!」
「…………え? ええええええええ!?」
いきなり笑顔でそんなことを言われ、エリスは驚きの声をあげる。
実際、驚きの声を上げたのは、エリスだけだったが、ここに集まるクラスメイト達も内心ではかなり驚いていた。
「な……なんでよ! さっきあんなにいいこと言ってくれてたじゃん!」
「いやだって、私はお姉ちゃんに負けて、校内戦敗退しちゃったんだよ? クレフィ先輩に仇をとってもらいたいじゃん」
「えぇぇぇぇぇ、そこは実の姉を応援してよ~」
「べ~だ。お姉ちゃんなんて負けちゃえばいいんだ。むしろ、一年生で校内戦優勝なんてお姉ちゃんに出来るわけないじゃん」
「……エリナのバカっ! こっちの気も知らないで言いたいことばっか言って! もう知らない!!」
怒ったように控え室の方へと向かっていったエリスだったが、その姿はいつもと変わらない調子に戻っていた。
「……ふふっ、頑張ってね、お姉ちゃん」
いつも通りに戻った姉の背中を、エリナは微笑みを浮かべながら見届けた。




