33話 姉妹の戦い2
ティガウロには色々と聞きたいことがあった。
二日前の騒動において、少なくともこいつなら状況を知っているだろう。だがこいつは、昨日三人を迎えに来た時、今回の件を謝っただけで、何も言いやしない。こいつが帰る前に俺が伝えた、明日は絶対に来いという命令通り、こうして来たことだけは評価するが、何事もなかったかのように振る舞うこの姿は、どっかの王様と重なって、少しというか、かなりむかつく。
まぁ、俺だって、人にどうこう言える立場じゃないから、特に言う気はないが、昨日みたいなことは無いようにしてもらいたいもんだ。
「……マルクトさんはちゃんと先生やってるんですね……」
大きな画面に映し出されたエリスとエリナの顔を見て、ティガウロがマルクトの近くでそう呟いた。
「……どうした、急に?」
彼のことを色々と考えていたマルクトはそう返すが、ティガウロは視線をマルクトから大きな画面に戻した。
「最近、二人の顔を見ていられない程忙しかったんですけど、いつの間にか二人とも、強張っていた顔が和らいでますね。……きっと、マルクトさんがどうにかしてくれたんですよね。……さすがです」
「……いや、まだまだだよ。エリスの時は、エリナが言ってくれなかったら気付けていなかった……目の前にいる生徒の顔を見ずに自分勝手な行動をしたから、あんなことが起きたんだ。すまんな、俺がふがいないばっかりに、お前の妹を危険にさらしてしまった……」
「いいんですよ。手遅れになる前にエリスを助けてくれましたから……兄の僕には二人とも全然話してくれなかったですし……相当信頼されてるんですね。マルクトさんが、二人の先生で良かったです」
「ありがとな。いつか二人からもそう言ってもらえるようにこれからも頑張るとするよ」
「ええ、頑張ってください」
ティガウロはそう言うとマルクトの後ろに空いてある席があったため、そこに座った。
「……ところで、ティガウロはこの試合をどう見る?」
「そうですね~……兄としては、どちらにも負けてほしく無いですが……真面目に言うと、エリナが圧倒的に不利ですね」
「圧倒的に? 僅差とかではないのか?」
「まぁ、他の魔法はエリスと大差無いですが、エリナがエリスの攻撃魔法に勝つのは難しいでしょうね。なによりも、エリナ自身がエリスに勝つことを半ば諦めている。だから、エリナは支援系の魔法を重点的に極めています。それは、エリナや俺が戦闘でピンチの時に助けるからだと中等部時代に話してくれました」
「……なるほど、ティガウロはエリスが勝つと思ってるのか……」
「いえ、それは中等部の頃までしか知らない俺の意見です。二人は高等部になってから、マルクトさんに出会いました。実際エリスはかなり強くなっていましたし……エリナの成長次第ですね」
「なるほど、じゃあ楽しみにするとしよう。エリナの成長がエリスを上回れるかどうかを……」
◆ ◆ ◆
「お姉ちゃん……今日は負けても言いっこ無しね」
「……へ~珍しいじゃん。いつもなんか言うのはエリナの方なのに、それでいいの?」
「うん。今日だけはお姉ちゃんに勝ってお姉ちゃんを追い越すから!」
普段はこういう場で丁寧な口調と姉さんという呼び方を心掛けているエリナが、こうやって家にいる感じになる時は、決まって油断出来ない強さになっている。
エリナは弱くない。エリナが目立たないようにしているから、私はエリナより強いと中等部から言われ続けた。だけどエリナが、私に本気を出すことはない。それは、エリナがガウ兄を尊敬しているからだ。
だから、今日は絶対に油断出来ない。
「私も……絶対負けないから」
そして、試合開始の時間となって、鐘の音がスタジアム中に響き渡った。




