33話 姉妹の戦い1
「エリス、エリナ、今日は頑張れよ」
目の前でクラスメイト達に囲まれている銀髪の双子姉妹に向けて、エールを送るマルクト。
二人は嬉しそうにしてはいたものの、ちょっとだけ複雑そうな顔をしていた。だが、それもしょうがないと言えるだろう。
なぜなら、今日の対戦相手は血を分けあった家族なのだから……。
料理店の『Gemini』に敵が攻めこんだ件と、荒野が一瞬で消え去るという事件が起きてから二日の時が経った。ユリウスの協力で、市民の耳にその情報が入ることはなく、マルクトの狙い通り校内戦は予定通り行われていた。
「……大丈夫だよ! 先生」
言葉を誤ったかもしれないと後悔していた俺にエリスがそう言うと、彼女は自分の薄い胸を叩いて笑顔を向けてきた。
「先生の教え子として、恥じない戦いをするし……それに、エリナと戦いたかったという気持ちは嘘じゃないしね」
「ええ、私も手加減はしません。正々堂々、姉さんに勝って兄さんに自慢するんです!」
二人の目に迷いがないと言えば嘘になるだろう。それでも、彼女達が前を向くのなら、その背中を押すのが教師だと思う。
「ふっ……そうか。なら悔いが残らないよう、精一杯戦ってこい!!」
「「はい!!」」
◆ ◆ ◆
『さぁ!! 本日は魔導学園エスカトーレの校内戦準決勝を快晴の下、行わせていただきますが、まずは実況解説の紹介を行わせていただきます! 本日の実況を勤めさせていただくのは、高等部一年主任、マイヤーズ。そして、解説は一年A組担任教諭、メルラン教諭にお越しいただきました。本日はよろしくお願いいたします』
『よろしくお願いします』
『二ヶ月にわたって開かれた校内戦も本日と明後日で全ての日程を終えますが、本日の対戦は決勝進出をかけた大一番でございます! ……それにしても、私は驚いておりますよ。まさか、一年生がここまで勝ち上がってくるとは……準準決勝まで残ったベル・リーパー選手やアリサ選手といい、今年は豊作ですねぇ!!』
『ええ、今から戦う双子姉妹のエリスちゃんとエリナちゃんは、中等部時代、中等部最強の双子姉妹と呼ばれ、その名声は高等部にも届いていましたし、春の魔導フェスタでは、担任の補助を自分からかってでて、二名の侵入者撃退をしています。相手は手練れだったにも関わらず、二人は互いをカバーして、見事、担任教諭の期待に応える素晴らしい活躍をしていました。……そんな二人だからこそ、お互いに得意なこと、苦手なことを知っているでしょうし、戦い方も熟知しているでしょう。その点で、この試合はとても見応えのあるものになると私は期待しています』
『……な……なるほど。確かに二人が戦ったという記録は無いですし、水属性の氷撃魔法を得意としているエリス選手と光属性の魔法を全体的に得意としているエリナ選手、どちらが強いのかという予想が難しいところですね』
「すいません、マルクトさん。遅くなりました」
マルクト達が座っている席の近くに、銀髪の青年が近付いてきて、生徒達と共に座っていたマルクトにそう挨拶をしてきた。
「おうティガウロ、もうすぐ始まるぞ!」
「ティガウロさん、おはようございます」
マルクトとアリスがティガウロに気付き、彼に向かって挨拶を返す。
「……ねぇねぇ、あの人ってアリスちゃんの知り合い? かっこいい人だね~⁉️」
「エリスちゃんとエリナちゃんのお兄さんだよ。王様の近衛騎士をやってるんだって」
「いつもエリスとエリナがお世話になっております。二人の兄のティガウロと申します」
自分が王女であることを隠しているアリスが、他の女子生徒にそう紹介して、騎士の制服を着ているティガウロがエリスとエリナのクラスメイトにそう挨拶をした。
すると、金髪の幼い少女がティガウロの方に寄ってきた。
「ティガウロお兄さん、おはようございます」
「おはようございます、ベルお嬢様。先日は残念でしたね」
「……うぅ……それは言っちゃだめ……またピーマンなっちゃう……」
「……ピーマン?」
挨拶をしてきたベルに、屈んで挨拶を返すティガウロを見ていたマルクトは観客達が騒がしくなったことで、その視線をフィールドに移した。
そこでは、これからフィールドで戦う二人の少女が、観客の前に現れたところだった。




