32話 悲しい祝勝会8
「はぁ~……そんなことを終わった後に報告されてもな~」
魔導王国マゼンタの王都にそびえ立つ城の一室で、金髪に紫紺の瞳という珍しい特徴を持つ青年は露骨に溜め息を吐いた。
「……それで? 俺にどうしろって? 今回の件はさすがに隠せないだろ……」
その言葉が向けられたのは、紅茶を口元に持っていっている青髪の青年だった。
「……別に隠してもらおうなんて思っちゃいないさ……魔法の試し撃ちのためにワイルドイーターのせいで人が住めなくなった地域を利用しただけさ。加減もうまくいったし、誰も損はしていない。……何の問題もないだろ?」
「……問題かどうかはお前の判断で決まるものじゃない! 何度言ったらお前は判ってくれるんだ!」
マルクトのまったく反省していない言葉で、ついに我慢していたユリウスが声をあらげた。
「……だいたい、ワイルドイーターの被害がマゼンタにも来てるって愚痴っていたのはお前だぞ? 討伐隊を組めば少なからず犠牲者が増えるとも言ってたな……だから、今回の件でお前は犠牲者が出なかったという成果を得られたじゃないか……」
「それとこれとは話が別だ!! お前の魔法であの辺りに巨大なクレーターが出来たって上層部の奴らが寝ている俺を起こしに来たんだぞ!! ようやく急用が終われば、今度はお前がやって来るし! ……いいかっ!! 徹夜はお肌の大敵なんだぞ!」
(徹夜って……まだ十時前だぞ?)
と思っていても、そんな発言をすればユリウスの怒りが膨れ上がるだけなので、絶対に言わない。
色々と後片付けを終わらせれば、いつの間にかこんな時間になっており、報告しないとまたお小言が飛んでくると思ったため、サテライトの使用はせずに直接転移魔法で来たのだが……結局怒られてしまった。
「……まぁ、肌の管理なんて興味ないし、どうせ見ていた奴なんて国境警備隊くらいだろうし……闇属性の幻覚魔法で、すぐにいつも通りの風景を見せたしおそらく問題ないだろ……。せっかくだからお前の権限で今回のことは校内戦とマゼンタ最強決定戦が終わるまで内密にしていてほしいんだ」
マルクトがそう言うと、ユリウスは諦めたように項垂れた。
「……どうせ、断れば面倒なことを言われて、仕事を更に増やされるだけだからこの際受けてやるが……せめて理由くらい聞かせろ?」
「……理由といっても簡単さ。校内戦やマゼンタ最強決定戦という皆が楽しみにしているイベントを俺の自己満足なんかで潰したくない。……それだけさ」
「……なるほど……まぁ、理由も無しにあんな真似をする奴じゃないのは知ってるし、今回の件で俺達がかなり助かったというのは紛れもない事実だ。もしも問題になった場合は、俺が責任を持って処理してやるよ。だから今度からは事前に話せ!!」
「まぁ、時と場合にはよるが、尽力してみるさ」
そう言ったマルクトは空になったティーカップをテーブルに戻し、ソファーから立ち上がった。
「最後に一つだけいいか?」
背中を自分に向けるマルクトをユリウスが呼び止めると、彼は背中越しにこちらを見た。
「……なんだ?」
「……ここまでやる必要があったのか?」
その質問をした瞬間、ユリウスは確かに見た。マルクトの表情に影が差したのを。
「俺はもう……躊躇わないことにしたんだ。守るべき者達を見間違えないようにしようと決めた。……ただ……それだけだ……」
そう言ったマルクトは、ユリウスの私室から音もなく去った。




