32話 悲しい祝勝会7
「ふぅ……さすがにあの人数は疲れたな……」
マルクトは静かになった荒れ地でそんなことをぼやいた。
ここにやって来たのは、二つの理由があるからだ。一つは、敵にも言った通り、あの家族が大切にしている店を血で汚したくなかったから。だが、それはあそこで戦いたくなかった理由であって、ここで戦わなくてはならない理由じゃない。
別に戦うだけなら、どこだって良かった。でも、ここでなければならない理由があった。
「…………来たか……」
耳に届くなにかが近付いてくる音。
それは、俺が待ち望んでいた奴らだった。
マルクトは、なにかが近付いてくるのを感じて、一メートルほど後方に下がった。
すると、目の前に転がっていた死体が地面から出現した巨大な口に飲まれてしまう。
「……来たな……ワイルドイーター……!」
体長が五十メートルを越えるであろうワニのような化け物が、次々と出現し、散らばっていた死体を喰らっていく。その数は十や二十ではなかった。
目の前で男達の死体を貪っている化け物はワイルドイーターという名前がつけられた魔物である。
三十年程前に、魔王が来ると同時にやって来た魔物で、元々はこんなに大きくなかったそうだ。
地面に潜り、動物でも鉱物でも関係なく食らい、人の被害もかなり出たらしく、この辺り一帯に生息し始めたことで、この荒れ地が出来上がったのだが……この通り、繁殖し過ぎたのだ。
どんどん生息地を広げていき、魔導王国マゼンタにも被害が出始め、ユリウスも頭を悩ませている。
魔王討伐を掲げて、この場所に来た際、発散したい気分だったから殲滅した……と思っていたのだが、広域過ぎて生き残りがいたらしい。
カトレア曰く、害獣でしかないから駆除しても問題はないそうで、ユリウスの悩みの種でもあったため、せっかくなので彼らの襲撃を利用させてもらった。
生かした状態で阿鼻叫喚のメロディーを奏でるという考えにも思い至ったが、そんな手加減をすれば逃げられる可能性もあったため、さっさと仕留めることにした。
人を殺すことや死体の冒涜だと文句を言う者も出るかもしれないが、そんなことは最低限守ればいい。
生かしたことによって、大切な仲間達が今度は知らないところで、襲われた場合、それは俺の甘さが迎えた結果だ。
俺の大切な者達を襲ったんだ。奴らは俺の逆鱗に触れた。だから俺は、奴らにそれ相応の反撃をした。
後悔はもう……する気はない。後悔したのなら……その原因を潰す。
まずは……殺し損ねた害獣の処理から始める。
「……絶望に染まれ……死は、生は、汝らが決められるものではない。我の力でその生を死に塗り替えろ!!! 極大魔法バジェストグラディエーター!!!」
マルクトがそう叫ぶと、白い光と黒い光がワイルドイーターと呼ばれる化け物達に降り注がれる。
その光は地面を抉り、中に潜っていたワイルドイーターをも、砂と共に消し去っていく。光はやがてマルクトが設定していた範囲を照らし終えると、消え去ってしまった。……広大な荒野とともに……。




