32話 悲しい祝勝会5
「おいおい、いったい何の冗談や? 命を賭ける? 笑える冗談やな~。死ぬのは自分やろ?」
耳障りな笑い声を恥ずかしげもなくし続ける男がそう言うと、後ろにいる男達が武器を構え始めた。
「おとなしく帰ってくれればいいものを……さて、久しぶりだが、使えるかな?」
マルクトが着ていたウエイトレスの格好を一瞬で白衣に戻した直後、数人の男達がその場から消えた。
「…………は?」
笑っていた男は、その光景を見て笑うのを止め、鳩が豆鉄砲を食らったような顔を見せる。
「あ~あ、だからそれ以上近付くなって言ったのに……まぁ、今から全員同じ場所に飛ばすんだけどね」
その言葉がマルクトの口から放たれると同時に、マルクトは指を鳴らした。
外にいる連中を含め、全員にその音が届くと、彼らの足下に巨大な渦が出現し、抵抗さえさせてもらえずに沈んでいった。
先程まで、人が押し寄せていた『Gemini』には、マルクト以外の人物がいなくなってしまった。
「……うまくいったか? まぁ……失敗しても次元の狭間で彼らが一生出てこれないだけだし別にいいけどね……まぁ、うちの大切な生徒を狙っておいて、無事に帰すなんて気はさらさら無いがな……」
再び指を鳴らして、預かった店を完全に戸締まりを行ったあと、マルクトは転移魔法を自分に使用した。
◆ ◆ ◆
「こ……ここはどこや?」
砂や枯れた木しかない荒野に倒れ伏していた男の一人が、口に入った砂を吐き出した後に、そうぼやいた。
先程まで王都にいたはずなのに、今はその面影すら見えない。辺りを見てみれば、襲撃しようとしていた全員がいるみたいだった。
「ここは、今は無きグルニカ帝国と魔導王国マゼンタの間にある荒野だ。……まぁそんなことはどうでもいいよな? お前達が俺を怒らせたことで死ぬという運命は変わらないのだから」
その説明を行ったのはいつの間にかそこに立っていた青髪の青年で、いきなり死ぬと言ってきた彼の言葉に男は激情して、顔を真っ赤にする。
「なんや自分! この人数がわからんのんか? 自分に勝ち目なんてないわ!!」
「……まだわかってないのか? お前達がここにいるのは俺が発動させた空間転移魔法の結果だ。やろうと思えば溶岩の中に入れることも可能だったし、牢屋にぶちこむことも可能だったんだぞ? なのに何故それをしなかったと思う?」
「何故ってそりゃ……」
「おい聞いてないぞ! なんであの教師がここにいやがる!」
青年からの問題に答えを出そうとした瞬間、その言葉は後ろからの叫び声に似た声で遮られた。
その言葉を叫んだのは、外で待機していた今回の総責任者で、スーツを着込み、入る前に口論をした相手だった。だが、そんなことより驚いたのは、彼の放った言葉だった。
「ま……まさか……」
彼らはボスに伝えられていた。
『青い髪に金色の瞳が特徴の白衣を羽織った教師、マルクト・リーパーが来た場合は、戦わずに即刻退散せよ』と。
そして今、目の前にその特徴と合致した青年が、手に巨大な鎌を握り、戦闘体勢に移った。
「答えは簡単、彼女達の店で人は殺したくないからだよ」




